ワインの造り方から見る、色合いと味わい~赤ワイン・白ワイン編で、ワインの造り方をザックリと図解で説明しました。本当に大まかな流れを押さえただけなので、もう少し細かい内容が知りたいという方のために、“ちょっとだけ詳しく”醸造工程を説明します。
それってなんで行うのか、なぜその順番なのか。そこを少しでも理解できて「ナルホドね~」と思えると、ワインがより楽しくなり、次飲むワインが今までよりも味わい深く感じられるのではないかと思います。
前回の「ザックリ図解」も登場させながら、工程の詳細を見ていきましょう。
この記事の目次
【収穫・除梗・選果・破砕】まだ、果物。甘酸っぱい幼少期
実ったブドウを刈り取ります。北半球でだいたい8~9月の期間。品種や地域により収穫時期は異なり2ヶ月くらいの幅があります。
収穫されたブドウの房を、実(粒)と茎に分けます。茎の部分を「梗(こう)」と言い、この部分は不要なので取り除きます(梗の部分も一緒に発酵する造り方もありますが、基本的には除梗します)。
除梗した丸い粒を検品して不健全な実を取り除き、いいブドウ(粒)を選びます。これが「選果」です。不健全なブドウというのは、葉やほかの実の陰になってちゃんと成熟しなかった粒や、何かしらの病禍に侵された実です。これらが混ざると、ワインに雑味をもたらしたりするのです。
赤ワインの場合は、選果された粒をつぶして皮を破り、タンクなどに入れます。
白ワインの場合は、選果後すぐにプレスするので「破砕」はしません。
【発酵・醸し】変化する思春期
発酵・醸しを行うための容器は色々ありますが、一番多く使われるのはステンレスタンク。最近は、コンクリートタンクの使用も増えています。一部、高級ワインを生産する醸造所ではオーク槽(大きな大きな木桶)を使用したり、樽を使って発酵する生産者もいます。
赤ワインの場合は、破砕したブドウの果汁、果皮、果肉、種が入ったタンクの中に酵母を入れ(ブドウに付着した酵母だけで発酵する場合は入れない)、発酵させます。
白ワインの場合は、後述する「プレス(圧搾)」で得た果汁に酵母を入れて発酵させます。
発酵とは、糖が酵母によって、エチルアルコールと二酸化炭素に分解する化学変化のこと。
つまり、ブドウの果汁に含まれる糖分が、アルコール(と二酸化炭素)に変わるということです。発酵中のタンク内には二酸化炭素が充満し、ポコポコと音を立てて泡立っています。その様子がまるで生き物のようで、「あぁ今まさに、ブドウがワインに生まれ変わろうとしているんだな」ということを感じます。
醸しとは、果汁の中に果皮、果肉、種を漬け込んでおくこと。赤ワインを造るときのみ行う工程です。
醸すことによって、液体(果汁)に果皮や種からの成分が抽出されます。主に、果皮から色素やポリフェノール類が、種からタンニンが抽出されます。ティーポットのお茶を想像するとわかりやすいかもしれません。茶葉をお湯に浸して、香りや味や色みを抽出し、お茶を楽しみますよね。
発酵と醸しは、タンク内でほぼ同時並行で行われています。発酵中は二酸化炭素(炭酸ガス)が生成されているので、タンク内の固形分はガスによってタンク上部に持ち上げられます。すると色味や成分が均一にならないので、途中、タンクの上から大きなしゃもじのようなものでかき混ぜたり、下部の液体をポンプでくみ上げて上部から撒き入れたりします。
つまり、赤ワインの色は、果皮の色、ということになります。よくよく考えてみれば、巨峰など食用の皮の黒いブドウでも、中の実は白いですよね。果汁も白っぽい色をしています。
発酵タンクの中に果汁と酵母のみを入れる白ワインには「醸し」の工程はありません。
【圧搾(プレス)〜赤〜】まだ大人でも子供でもない・・・
赤ワインの場合、発酵・醸しが終わると、ブドウ果汁が「ワイン」になります。若々しいワインです。タンクの中には、この若々しいワインに果皮や果肉、種などがぷかぷか浮いています。茶葉とお湯が入ったティーポット、茶こしの中の状態です。
タンクの下部からワイン(液体)だけを抜き取ります。これを「フリーランワイン」と言います。フリーランワインを出し切った後、タンク内にはワインが含まれる果皮などの固形物が残ります。これを掻き出してプレス機に入れ、軽く搾ります。この、搾って出るワインを「プレスワイン」と言います。
お茶ではあまり茶葉を搾ることはしませんが、ティーポットから注がれたお茶と、残った茶葉から搾り出したお茶、明らかに味わいが違いますよね。茶葉を搾り出したお茶は渋みが強いかと思いますが、これはワインでも一緒です。フリーランワインとプレスワインを混ぜ合わせることで、複雑な味わいのワインになります。生産者によっては、プレスはせず、フリーランワインしか使わないワインもあります。
白ワインの場合は、除梗・選果したブドウの粒をプレス機(圧搾機)に入れ、優しく搾ります。搾り出された果汁のみを、空気に触れないまま発酵のタンクに移します。
同じ「プレス」という工程ですが、赤ワイン(黒ブドウ)と白ワイン(白ブドウ)では「プレスするもの」が違います。赤ワインでは醸された果皮や果肉や種で、白ワインではブドウ粒になるのです。
またプレスによって得られるものも異なり、赤ワインの方は既に発酵が済んだ「ワイン」ですが、白ワインの方は「果汁」です。
【マロラクティック発酵(MLF)】とんがってたキャラが円くなる
先述の「発酵」は、糖を分解してアルコールと二酸化炭素を生成する化学変化で、「主発酵」と呼ばれることもあります。赤ワインは圧搾の後、白ワインはこの主発酵の後に「マロラクティック発酵(略称:MLF)」というのを行う場合があります。
マロラクティック発酵とは、乳酸菌の働きで、ワインに含まれるリンゴ酸を乳酸に変える発酵です。リンゴ酸はやや強めの酸味がありますが、それが乳酸に変わるとまろやかな酸味になります。
酸の性質を変えるだけでなく、微生物の餌になりやすいリンゴ酸から、餌になりにくい乳酸に変えることによって、熟成中のワインの中で良からぬ変化を防ぐため、赤ワインではほとんどMLFを行います。逆に白ワインでは、行わないものも多くあります。
【熟成(育成)・清澄】洗練の時
ワインを、樽に移して熟成(育成)させます。その目的は、ワインの液体中に浮遊している微細な物質(仕事を終えた酵母の残骸や果実の澱など)を沈殿させたり、樽の木目からわずかに入り込む酸素に触れて味わいをまろやかに整えるためです。また、木材に含まれるタンニン分がワインの清澄化を促し、風味も複雑化します。
ブドウの持つピュアな風味を表現したい場合などは、樽の成分をワインに移さないよう、あえてステンレスタンクで熟成(育成)させることもあります。
収穫から圧搾までの所要時間は1~3週間程度ですが、樽熟成は数ヶ月から数年と、ワインによってそれぞれです。
この間、「清澄」という作業を行います。清澄前のワインは、様々な成分や微生物が漂っているので濁っています。これら微細な物質を除去し澄んだ液体にするのですが、そこで使用するアイテムが「卵白」。樽の中に軽く泡立てた卵白を投入します。
卵白に含まれるアルブミンというたんぱく質がタンニンと結びつきやすく、少しずつタンニンと結合し、その他の色素成分や微生物などを巻き込んで、だんだんと重みで沈んでいき樽の底にたまっていきます。
清澄作用のみならず余分なタンニンも除去されるので、卵白を清澄剤に使用するのは主に赤ワイン。ただ、大樽1つにつき3~6個の卵を使用するようで、アルブミンだけを取り出した粉末状の清澄剤を使用する生産者も多いようです。100樽分のワインを造るとなると、300~600個の卵を用意しなければなりませんから…コストが高くなりますからね。
卵白以外にも、ゼラチンやベントナイトなどを使用することもあります。結びつきやすい物質や利点が異なるので、出来上がるワインの求める味わいや、清澄するタイミングでのワインの状態によって、生産者は使い分けています。
ちなみに、清澄をしないワインもあります。
【濾過・瓶詰め】いよいよ旅立ち
熟成(育成)期間が終了すると、濾過しながら瓶詰めを行います。ワインに過度な負担がかからないよう濾過しないで瓶詰めする生産者もいます。
瓶詰めしてからさらに熟成を重ねる場合も多くあり、その場合は、コルクを打ってからセラーに寝かせておきます。
旅立ちの時が来たら、ラベルを貼って、キャップシールを巻き、出荷します。
育成過程(醸造工程)が違えば、個性も違う
当たり前ですが、意味のない工程は一つもありません。そして、大昔から変わらない部分もあれば徐々に進化していった工程もあります。一つひとつの工程をやる・やらないだけでなく微妙な匙加減でも味わいや色調が変わります。
例えば最近流行の「自然派ワイン」。「自然派」の定義があいまいで、何をもって「自然」なのかは様々な解釈がありますが、そのうちの一つに「醸造が自然」というのがあります。「醸造が自然」とは、極力人の手を介さない造り、という意味。具体的には、赤ワインの発酵後のプレスをしない、清澄化しない、濾過しない、などが挙げられます。
「しない」ことが正しいとか「する」ことが間違っているとかそういう議論ではなく、生産者が「どんなワインを造りたいか」、この一点に尽きます。
世界には、大規模なワインメーカーもいくつか存在しますが、圧倒的に多いのは、家族経営などの小さな生産者。それは、「造りたいワインを造る」という思いの人が、各々ワイン造りに携わっているから、なんですね。
ワインを特徴づけるものとして、品種や産地や生産年、熟成期間、さらに生産者(=造り方)がありますが、ワインの種類が多すぎてよくわからない!となる原因は、まさにココにあるわけです(汗)
ですが、基本的な醸造方法を知った上で、特殊な造り方をした「知っているワインとは違うワイン」に出会った時に、また感動もあったりするのです。そんな感動に1回でも多く出会えることを願っています!