ワインという一つのお酒で、様々な“色”があるハナシは以前しましたが(ワインの造り方から見る、色合いと味わい~赤ワイン・白ワイン編/ロゼワイン・オレンジワイン編)、甘さを全く感じないドライな味わいから、ねっとりとしたリキュールのような濃厚な甘さがあるものまで、味わいのバラエティにも富んでいるのも、ワインの魅力の一つです。
近年は、食事との相性から、世界的にも辛口ワインが主流になっていますが、砂糖が貴重品だった時代は、甘さは富と権力の象徴でした。時代によって、ワインの人気も変わるものなんですね。
そんな「辛口」と「甘口」の味の違いはどこから生じるのか、詳しく説明します。
この記事の目次
辛口って何?
お酒においての「辛口」という表現で、まさか、唐辛子の「辛味」を想像する人はいないと思いますが、念のため、辛口の定義を確認しておきましょう。
EUのワイン法では、甘辛度合いを4段階に分類しています。ワインになった時の残糖量が4g/ L以下のものをsec(セック/フランス語)とラベルに表示しますが(スティルワインの場合は義務ではない)、このSecの和訳が「(お酒など)ドライな」となっています。“ドライ”は、“乾いた”という意味がありますが、お酒などでは“辛口”という意味になります。
残糖の“糖”は、基本的には(※)ブドウが本来持っている糖質であるブドウ糖です。このブドウ糖が酵母の働きによってアルコールと二酸化炭素に分解されて、お酒であるワインができあがります。
※ブドウの糖度が足りずに、補糖してアルコール発酵をしているスティルワインもあります。ただし、スティルワインの補糖は、アルコール発酵のために行うもので、甘味を添加するためではありません。
一方シャンパンでは、味の調整のために出荷の前にリキュールなどを添加することがよくあります。スパークリングなので甘味は感じにくいですが、甘味を感じたらそれは、ワインを造ったブドウの糖分ではなく、添加された甘味になります。
つまり、糖分のほとんどが分解されてアルコールになったらsec(辛口)になる、ということです。逆に、アルコールに分解されずに糖として残った量が多くなると、それは甘口のワインになります。
残りの3段階は、以下の表のとおりとなります。
「甘口ワイン」といっても、実はいろんな種類がある
ここで一つ疑問が生じます。先ほど示した一覧表を見ると、ものによって残糖量が4g/L~45g/Lと10倍以上の差がありますが、なぜ同じブドウという果物から造られるお酒で、そんなにも残糖量に差がつくのかと。
いや、実際は10倍どころか、25倍くらい差があるワインもあります。後述しますが、貴腐ワインで有名なソーテルヌは、残糖量が平均して100g/Lほどあります。
「糖が分解されてアルコールになるのであれば、分解されずに糖が残ったワインはアルコール度数が低いのかな?」と、勘のいい方は思いますよね。ある意味、正解です。
同じブドウを使って甘口と辛口のワインを造った場合、甘口の方がアルコール度数は低くなります。ブドウの持つ糖分をすべてアルコールに分解してしまわないように、アルコール発酵を途中で止めてしまうからです。
「もともと糖度の高いブドウを使えば、より甘いワインができるのでは?」これも正解です。「甘味を後から足すこともあるのかな?」…あります。
甘口ワインの造り方は、大きく分けて3つあります。
甘口ワインの造り方① アルコール発酵を途中で止める
酵母による糖の分解を抑え、狙った甘さになるように、途中でアルコール発酵を止めて甘口ワインを造る方法です。
アルコール発酵の止め方には、いくつか方法があります。
酵母を死滅させる
温度を下げることもその一つ。酵母は、一定の温度がないと活動しないので、温度を下げることによって、酵母の活動を抑えてしまうのです。
ただそうすると、ワインの中にはまだ糖分が残っているので、温度が上がったらまた酵母が活動(=糖を分解し、アルコールと二酸化炭素を生成)してしまう!それは困る!ということで、酵母を取り除かなければいけません。
その方法の一つが、SO2を通常よりも多めに添加することです。SO2は二酸化硫黄のこと。亜硫酸塩とか酸化防止剤とも呼ばれています。SO2は酵母の発育を阻止する効果があり、量が多ければ死滅させることもあります。そのため、発酵を途中で止めることができます。
瓶詰めの際にきちんとフィルターにかけて、生き残ってしまった酵母も死滅した酵母も、瓶内には入れないようにすることが大切です。
ほんのりとした自然の甘みを感じる、中甘口とか半甘口とか呼ばれるワインの造り方です。
度数の高いアルコールを添加する
もう一つ、アルコール発酵を止める方法があります。それは、発酵している途中でブランデーなどの度数の強いアルコールを添加することです。なぜこれで発酵が止まるのかというと、ワインの酵母はアルコール耐性がそれほど高くないので、15~16度くらいになると活動できなくなってしまうからです。
甘口のシェリーやポートワイン、フランスのヴァン・ド・ナチュレル(VDN)などがこの方法で造られる甘口ワインです。
ブランデーなどの度数の高いアルコールを添加して発酵を止める場合は、できあがるワインのアルコール分は添加した度数の高いアルコールが担い、原料のブドウの糖分をそのまま“甘味”として使えます。しかし、SO2の添加で発酵を止める場合は、ブドウの糖分はアルコールになる分と甘味の部分と両方を担わなければいけないので、それほどしっかりした甘さの甘口ワインには成りにくい…。
では、極甘口とも言われるような、残糖量が100g/Lもあるような甘口ワインはどのように造られるのでしょうか。
甘口ワインの造り方② 糖度の高いブドウでワインを造る
完熟した普通のブドウから造られる甘口ワインは、せいぜい中甘口(半甘口)のワイン。45g/L以上の甘口のワインを造るには、原料となるブドウにもちょっとしたひと手間が必要になります。
そんなブドウから造られた甘口ワインが、貴腐ワインやアイスワイン、またヴィン・サントと呼ばれるワインもこれにあたります。ワインを造るブドウは異なりますが、三者に共通するのは、何らかの方法でブドウの水分を除去し、糖度が凝縮したブドウからワインを造る、ということです。
貴腐ワインって、どんなワイン?
貴腐ワインは、樹に成りながら干しブドウ状態になったブドウを使って造るワインです。ボトリティス・シネレア菌という菌が熟したブドウの果皮につき、その果皮に穴をあけて水分を蒸発させることで“樹上干しブドウ”ができます。
この、“ボトリティス・シネレア菌による樹上干しブドウ”は貴腐ブドウと呼ばれ、特定の条件を満たす気候のもとでないとできないブドウです。
アイスワインって、どんなワイン?
アイスワインは、樹に成りながら氷結したブドウを使って造るワインです。-7℃~-8℃以下の気温化で収穫しなければならず、当然氷点下なのでブドウの水分は凍っています。凍った状態でワイン造りに取り掛かり、凍った水分と果皮、種は取り除かれてアルコール発酵します。
アイスワインもまた、-7℃~-8℃以下の気温化で収穫することができる地域ですので、一部の限定した産地でしか造られません。
ヴィン・サントって、どんなワイン?
ヴィン・サントは、イタリア・トスカーナのものが有名ですが、実はギリシャ生まれのワインです。一部辛口のものもありますが、ギリシャやイタリアで造られる甘口ワインをヴィン・サントと呼ぶことが多く、その製法で造られるワインは、フランスなど他の地域にもあります。
いわゆる、陰干ししたブドウから造られるワインです。貴腐ブドウは“樹上干しブドウ”でしたが、こちらは収穫後に、ブドウを藁やすのこに並べたり、吊るした状態で干しブドウにします。
甘口ワインの造り方③ 甘味を添加する
一口に「ワイン」と言っても、実は次のように大きく4つに分類されます。
・発泡のあるワイン(スパークリングワイン)
・発泡のないワイン(スティルワイン)
・酒精強化したワイン(フォーティファイドワイン)
・ブドウ以外の原料を添加や浸漬させたワイン(フレーヴァードワイン)
先述したシェリーやポートなど、発酵している途中でブランデーなどの度数の強いアルコールを添加したワインが酒精強化ワイン(フォーティファイドワイン)に当たり、後から甘味を添加したワインがフレーヴァードワインに当たります。
フレーヴァードワインでもっとも有名なのは、カクテルなどで飲まれることが多い「チンザノ」ではないでしょうか?イタリアのチンザノ社(1999年カンパリグループにより買収)が造るベルモットで、甘口と辛口があります。
甘口は、白ワインにハーブやスパイスのほか、甘味料やカラメル、バニラなどを加えています。「ブドウ以外の原材料を使っているけどワインなの!?」と思われそうですが、れっきとしたワインの一種です。
未発酵のブドウ果汁を添加する場合もあります。ドイツのズース・レゼルベが有名で、プレスして得た果汁(ブドウジュース)を一部保存しておき、残りの果汁を発酵させ、ワインができ上ったらそこに添加して味の調整をします。
今の50代60代くらいの方は、ドイツワインと聞くと甘口ワインを連想される方が多いようですが、1970年代の頃は、日本ではもっぱらワインといえば甘く、ドイツから輸入されるワインは、このズース・レゼルベが添加された甘口のワインがほとんどだったようです。
「辛口ワインが欲しい」というオーダーでは、100%「どんな?」と聞き返されてしまいます
辛口と甘口の違いは、ワインに含まれる残糖量の違いであり、残糖量の違いはワインの造り方の違い、ということです。4g/L以下のものをSec(辛口)と先述しましたが、これはあくまでEUのワイン法で、日本においては明確なルールや基準はありません。しかし今日、日本で流通しているワインのほとんどが、Sec(辛口)です。
ですので、レストランやワインショップなどで、甘口ワインを求めている時は「甘口ワインが欲しい」というオーダーでもいいのですが、辛口ワインを探している時に「辛口ワインが欲しい」と言ってもダメ。大半のワインが辛口なのですから、それはまるでスニーカーショップで「スニーカーが欲しいんですが…」と言っているようなものなのです。
辛口ワインが欲しい時は、もう少し掘り下げた要望を示す必要があります。例えば、「渋みが少ない辛口の赤ワイン」や「すっきりした飲み口の爽やかな辛口白ワイン」といった感じです。品種で選ぶのもいいでしょう。品種から好みのワインを探したい方は、こちらの記事も参考にしてください。
【自分好みのワインを知るための品種のハナシ】渋み少なめの赤ワインを選ぶには
【自分好みのワインを知るための品種のハナシ】渋みが効いた赤ワインを選ぶには
【自分好みのワインを知るための品種のハナシ】シャープな酸の白ワインを選ぶには
【自分好みのワインを知るための品種のハナシ】まろやかな酸の白ワインを選ぶには
甘口ワインが比較的高価な理由
甘口と言っても様々な造り方があるので、甘さの度合いも色々あります。酒精強化ではない、途中でアルコール発酵を止める方法は、文字で書くと簡単に見えますが、ワイン造りとなると特別な設備が必要になります。つまり、辛口のワインを造るよりも生産コストがかかるのです。
貴腐ワインやアイスワインは、特有の自然現象で得られる原料から造られるため、リスクが伴うワインです。陰干しブドウから造られるワインも、何ヶ月も“干す”ので時間やコストがかかる上、中には干している途中で腐敗してしまうブドウもあるのです。
そんなわけで、甘口ワインは高価だなと思われる方もいるかもしれませんが、高いなりの理由があるのでご了承ください(笑)。
しかし、甘口ワインは一度にたくさんは飲めない上に、抜栓しても冷蔵庫保管で1ヶ月くらいは飲めてしまうので、コストパフォーマンスは優れたワインとも言えます。一日働いて疲れて帰宅した時など、果物由来のやさしい甘さが癒してくれますよ。