(Willamette Vallley)
ワインを飲み始めてキャリアが浅い人にとって、「どんな味わいのワインが好きですか?」という質問に答えるのは、意外と難しい。自分の“好み”のハナシなんですが、実はハードルが高いように思います。
なぜなら、「コッチよりアッチが好き」と言えるほど、いろんなワインをまだ飲んでいないから。 “好み”の思考は「AよりB」といった比較からくるものがほとんどだと思います。直感で「ビビッ!」と来るような出会いもあると思いますが、そんなことはワインでも異性でも、そうそうないものです(苦笑)。
「好きなもの」よりも「嫌いなもの」や「苦手なもの」の方が、人は案外すんなりと答えられるもの。「甘いワインが好きなわけじゃないけど、渋いワインは苦手」とか、「どっしり重たいワインは飲み疲れちゃうけど、薄い味わいのものもワインらしくない」とかであれば言えたりしますよね。
そんな“ワイン初心者”さんが、自分でワイン選びをする際に参考になるのが“ブドウ品種”。実は、品種によって、渋みの強いもの、弱いもの、酸味が強いもの、穏やかなものと、味わいの特徴が異なるのです。
そんな、“自分好みのワインを見つけるため”のブドウ品種のハナシを、味わいの特徴別にご紹介します!今回のテーマは、渋みが少ないワインの原料となるブドウ=比較的タンニン含有量が少ないブドウ品種。“渋いの苦手”さんは必読です。「渋みが少ないこと以外にも何か特徴があるの?」というハナシから、「どんなエリアで作られているの?」というハナシまで。頭の中に世界地図を広げてご一読ください!
タンニン含有量”低め”品種の代表【ピノ・ノワール】
線の細い、由緒正しい家柄のお嬢様。体も弱く、ちょっと無理をすると病に伏せ、どんな環境でもたくましく生きていける胆力はありません。大事に大事に育てられた「箱入り娘の色白美人」…そんなイメージを抱かせる品種がピノ・ノワールです。
おそらく、誰もが知っている(けど飲んだことはないであろう…)超高級ワイン「ロマネ・コンティ」のブドウ品種でもあります。
果皮そのものと、それに含まれる色素成分が薄いのが特徴のブドウ。タンニン量は少なく透明感あるルビー色の外観のワインになります。ただ地球温暖化の影響や醸造技術の発展により、以前に比べると、色合いの濃い、そこそこ渋みを持つワインも増えてきました。とはいえ、他の品種に比べれば、淡い色合いに穏やかな渋みが特徴と言えるでしょう。
【ピノ・ノワール】香りや味わいの特徴
(Vine grapes in champagne region at montagne de reims, France)
このブドウから造られるワインの、最大にして重要な特長は「まるでお花畑の真ん中にいるような香しさと、すーっとなじむ滋味深い味わいがあり、繊細な酸がきれいに流れ、いつまでもお花畑に佇んでいるかのような上品な余韻の長さ」でしょう。本当にいいピノ・ノワールのワインに出会うと、飲み物であることを忘れて、香水であるかのようにずーっと香りを嗅いでいたくなるものです。
一般的なピノ・ノワールのワインの香りの特徴は、フランボワーズやラズベリー、チェリーのような赤っぽい果実の香りを持ち、モノによっては赤いバラのイメージを抱かせる香りもあります。熟成が進むと、紅茶やきのこのような香りをまとってきます。
味わいの特徴は、何といっても酸です。まさにフランボワーズのような酸。産地や造り手によっては、ミネラル感があるワインもあるので、ボリューム感ある味わいと対比して、シュッとした線の細い、けれども芯のある味わいを持っていると言えるでしょう。
【ピノ・ノワール】代表的な産地
(Diamond Lake and Rocky Mountain walks, Wanaka, Central Otago, New Zealand)
「箱入り娘の色白美人」には、男女問わずみんなが憧れます。
ちょっとした気候の変化で病害に侵されやすく、よって、限られた気候・土壌の環境下でないと栽培が難しい上に手間もかかるピノ・ノワールですが、この上品な芳香と味わいに魅せられて、この品種を作る人が世界中に現れます。
もともと、生まれ故郷のフランス・ブルゴーニュ地方以外で栽培するのは困難と言われていましたが、様々な改良を重ねられ、今ではアメリカやニュージーランドも、ピノ・ノワールの産地として有名になっています。
とはいえ、やはり今でもフランスが、世界の中で最も栽培面積が広く、全体の1/3弱を占めています。ブルゴーニュはもちろん、シャンパンの主要品種でもあるのでシャンパーニュ地方も産地としては有名です。
フランスに次いで栽培面積は広いのがアメリカ。西海岸の北寄りにあるオレゴン州がメイン産地で、「オレピノ(オレゴンのピノ・ノワール)」と呼ばれて一定数のファンが存在します。オレゴン州の真南に隣接するカリフォルニア州の冷涼地域でも栽培され、秀逸なワインを生み出しています。
他にも、ピノ・ノワールを「シュペート・ブルグンダー」と呼ぶドイツも、伝統的な産地。イタリアでは「ピノ・ネロ」と呼ばれ、フランチャコルタ(=瓶内二次発酵のスパークリングワイン)の主要品種となっています。
南半球のニュージーランドやオーストラリアでも、南側の冷涼な地域でピノ・ノワールが栽培され、ワインの品質と知名度をメキメキと上げています。特に、世界最南端のワイン産地であるニュージーランドのセントラル・オタゴや、オーストラリアのタスマニアは近年注目されている産地です。
冷涼地域で栽培される品種はタンニン少なめ?色、淡め?
夏が好きな人もいれば冬が好きな人もいるように、ブドウの品種には、好みの気候条件があります。ピノ・ノワールは、冷涼な気候で育つ方がそのキャラクターの“強み”が存分に発揮されるよう、冷涼地域を中心に栽培されています。
冷涼地域で作られるブドウは、タンニン量が少なくて酸が立ち、淡い色合いのもの、というイメージを抱きがちですが、実は必ずしもそうとは限りません。冷涼地域で作られる、ギシギシしたタンニンを持つ品種については【自分好みのワインを知るための品種のハナシ】渋みが効いた赤ワインを選ぶには でご紹介していますので、ぜひそちらもお読みください。
そして反対に、温暖な地域で作られるのに、タンニン含有量少なめできれいな酸が効いたワインを造る品種もあるので、ここで2種ご紹介しておきます。
<サンソー>
フランスの南西部にあるラングドック・ルーション地方が原産と言われ、ラングドックや南東部のローヌなどで、グルナッシュやシラー、カリニャンとブレンドされることが多い品種です。高温と乾燥に強いけれど湿度に弱く、すぐカビ系の病気に侵されるようです(日本での栽培は難しいでしょうね…)。
フランスがメイン産地ですが、一時期、南アフリカでは主要な品種だったとか。今、南アフリカに植わっているサンソーの樹はだいぶ古木になっているので、上手に造るとピノ・ノワールのような上品なワインになります。
(Stellenbosch)
<フラッパート>
イタリアはシチリア島の土着品種で、現在もシチリアのヴィットリアという小さなエリアでしか栽培されていない希少品種。多くは、ネロ・ダヴォラなどのワインとブレンドされますが、フラッパート100%のワインも存在します。南の島・シチリア産とは思えないほど透明感、冷涼感を感じるワインになります。
ヨーロッパでは南に位置する産地で育まれる2品種をご紹介しましたが、できるワインの色合いもタンニンの含有量も、そして味や香りも、冷涼地域を好むピノ・ノワールに近しい特徴を持っていると言えます。
同じ品種であれば、温暖な地域で作られたブドウは、比較的色も濃くタンニン含有量も若干多くなるかもしれませんが、ワインの雰囲気を決める特徴はやはり、品種に起因するところが大きいということです。
タンニン含有量”いい感じ”品種の代表【グルナッシュ】
友達が多く、ビーチサンダルやスニーカーでいつも誰かと遊びまわっているけれど、時々、接待でパンプスをはいても様になる。共感力が高く人情味にあふれ、誰からも愛される「カラリとした性格の小麦色の肌をした元気娘」…そんなイメージを抱かせる品種が、グルナッシュです。
ピノ・ノワールほど品種の名前は知られてないけれど、カジュアルワインの代表品種。グルナッシュ100%のワインは少なめですが、ほかの品種とブレンドされたワインは、きっと誰もが一度は飲んだことがあるはずです。
ブドウの樹は、他の品種と比べると発芽が早いので、育成期間(ブドウが成長している期間)が長く、しっかり熟すと糖度が上がりやすい品種。なので、アルコール度数が高めのワインになりがちです。また、途中で発酵を止めた甘口のワインもよく造られます。
【グルナッシュ】香りや味わい、ワインの特徴
“グルナッシュらしさ”の筆頭は、ジューシーで豊かな果実味。オレンジジュースで例えると、果汁10%ではなく100%のジュースの“濃さ”を感じる味わいです。
カシスやプルーンのような、黒っぽい果実の濃厚な香りのワインになり、実は酸味もしっかりとあります。それほど酸っぱく感じないのは、豊かな糖度と果実味のおかげ。タンニン含有量もそれほど多くないので、柔らかく穏やかな渋みは口当たりも良好。“飲みやすい赤ワイン”選手権があったら、常に上位に君臨するワインでしょう。
とても親しみやすい味わい、かつ気候条件さえ整えば放っておいてもポンポンと実をつける品種のため、主要産地であるフランスのラングドック地方では、水のように飲まれるくらいカジュアルなワインが造られます。
一方で、南部ローヌを代表する高貴なワイン「シャトーヌフ・デュ・パプ」の主要品種でもあるグルナッシュ。幅広い対応ができる、よくできた子なんです。
【グルナッシュ】代表的な産地
(impressive medieval Loarre castle, Aragon, Spain)
世界のブドウ栽培面積を見ても、トップ10の栽培量を誇るグルナッシュですが、その9割ほどを占めるのがフランスとスペインです。フランスは世界のグルナッシュ栽培面積の半分を占め、南部ローヌやラングドック、プロヴァンスと言った南仏がメイン産地です。
スペインは世界のグルナッシュ栽培面積の4割ほどを占める主要産地です。というのもこのグルナッシュ、原産地はスペインの北東部。ピレネー山脈を越えてフランスに伝わったと言われています。
スペインではガルナッチャと呼ばれます。フランスではシラーとのブレンドが相性がいいですが、スペインではテンプラニーリョとブレンドされたワインが造られることが多いです。
生産量としては全栽培面積の5%ほどですが、イタリア・サルデーニャ島の主要品種でもあり、カンノナウと呼ばれています。フランスやスペインでは他品種とのブレンドがメインですが、サルデーニャではカンノナウ(グルナッシュ)100%で造られるワインの方が多いです。
品種によってこんなにも違う味わい、香り
赤ワインは、ブドウの種や果皮を漬け込んでアルコール発酵させるので、どうしても渋みを感じる品種の方が多くなりますが、赤ワインの渋みが苦手と言う人は、「ピノ・ノワール」や「グルナッシュ」のワインを選ぶと、ワインを楽しめるかもしれません。
他にも、途中でご紹介した「サンソー」や「フラッパート」、北海道でも栽培されている「ツヴァイゲルト」やボージョレ・ヌーヴォーでお馴染みの「ガメイ」などもタンニンが控えめな品種です。
知らない品種でも、興味を引かれたらぜひ一度飲んでみましょう。今よりもっとワインが楽しくなるはずです!