ワインと料理のマリアージュ。ワイン通でなくても、一度は聞いたことがある言葉だと思います。
マリアージュ(mariage)は、フランス語で結婚の意味。ワインと料理、それぞれのおいしさが掛け合わさり、2倍にも3倍にもなった“おいしさ”が「マリアージュ」という言葉で表現されています。
一方、ペアリングという言葉も最近よく耳にするようになりました。ペアリング(pairing)は文字通り「ペアにすること、組み合わせること」。マリアージュという“化学反応”が起きるかどうかはさておき、相性の良さ全般を意味するキーワードとして、よく使われます。
この記事の目次
え?フランスでは「マリアージュ」ってあまり言わない!?
ワインと料理の相性の良さから生まれる感動をドラマチックに表現する…食が大好きな日本人に、この「マリアージュ」という言葉はうまくフィットしました。
でも、フランスではむしろ「一致・合意」を意味するアコー(ル)(accord)をよく使うという人もいます。結婚という形態よりも個性を尊重するフランス人の思考も影響しているように思えて、なかなか興味深いものがあります。
ちなみに、イタリアでは、組み合わせを意味するアッビナメント(abbinamento)という言葉を使うことが多く、スペインでは、マリアージュと同じ語源のマリダヘ(maridaje)という言葉をよく耳にします。国や文化によって、ニュアンスも少しずつ違い、時代とともに変化していくのかもしれません。
話が少し逸れましたが、ワインと料理の「マリアージュ」が生まれるには、「ペアリング」の法則を知っておくことが第一歩。もちろん「おいしい」という感動は主観や経験値から生まれるものなので個人差があり、無限の可能性があるわけですが、いきなり自分なりの“ルール”を見出すのは難しいものです。
基本的な3つの法則を学ぶことから、まず始めてみましょう。
法則その1:産地同士の相性
日本でも、郷土料理を地酒と一緒に楽しむ習慣がありますが、それと全く同じことです。テロワールと呼ばれるその土地の気候風土から生まれるものは、相性がいい。それは誰しもが納得のことだと思います。
ヨーロッパの各国でも、然り。その料理と同じ郷土で育まれたワインを合わせると、失敗はあまりないものです。地方料理を銘打ったレストランが、その地方のワインを多く取り揃えているのは、この法則を知っているからなのです。
法則その2: “格”や濃淡のレベル感による相性
意外な組み合わせが「マリアージュ」を生むこともありますが、基本としてまずおすすめしたいのは、“格”や濃淡のレベル感を合わせるという法則です。
クラシックなレストランで品格のある伝統料理を食べるなら、造りも伝統的で上質なワインを合わせる。カジュアルなビストロで庶民的なメニューを食べるなら、リーズナブルだけれど味わい深く、造り手の顔が見えるようなワインを飲む…そんなイメージです。
また、味付けが濃い料理には、果実味やボディがしっかりしたワインを合わせ、反対に軽やかな味わいの料理には、爽やかなワインを合わせる…という濃淡のレベル感を合わせるのも効果的。熟成度合いも含め、いろいろなポイントで「レベル感を合わせる」ことを覚えておきましょう。
法則その3:風味成分による相性
「産地同士」「“格”や濃淡のレベル感」という2つの原則とともに、テイスティングスキルが高まってくると、第3の「風味成分」の法則が一番重要になってきます。
基本五味(甘味・酸味・塩味・苦味・うま味)に加え、刺激からくる辛味や、舌をきゅっと締めつける(収斂させる)渋味やミネラル感。さらに、星の数ほど例えがある香り(アロマ)もこの法則の要素です。たくさんの要素があるのでなかなか難しいのですが、香りや風味成分の組み合わせにも、基本的なものがあります。
そこで、ここではマリアージュの定番として有名な5つのペアリングとともに、風味成分の法則の具体的なパターンを探ってみましょう。「産地同士」「“格”や濃淡のレベル感」という2つの原則も併せた定番がほとんどです。
ブルゴーニュ風牛肉の煮込み×熟成したピノ・ノワール
「ブルゴーニュ風牛肉の煮込み(ブッフ・ブルギニョン)」は、その名の通り、フランス・ブルゴーニュ地方の郷土料理です。赤ワインをたっぷり使って牛肉を煮込んだ料理で、ビーフシチューの原型のようなもの。
ほんのりとした酸味や苦味もあり、うま味とコクが豊かなこの牛肉の煮込みには、同じような要素をもつ熟成感ありのピノ・ノワールが最高のパートナーです。
ブイヤベース×果実味あふれるドライなロゼ
肉の煮込みの次は、魚の煮込みを紹介しましょう。「ブイヤベース」は、魚貝類を香味野菜で煮込む料理です。南フランスのマルセイユの名物で、プロヴァンス地方をはじめ、地中海沿岸地域には似たような料理があります。
うま味はしっかりありますが、油分は少なく、香味野菜から引出される香りが豊か。軽やかで、フルーティ感もあるドライなロゼワインを冷やしてペアリング。見た目の華やかさも手伝って、気分もアガる!きっと、マリアージュの化学反応も体験できることでしょう。
がっつり系ステーキ×渋味もある濃厚な赤ワイン
「肉を喰らうぞ!」というテンションで食べる“がっつり系ステーキ”には、濃厚な赤ワインがよく合います。豪快に焼いた焦げもうま味となるイタリア・フィレンツェ名物の「ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ」には、やはりご当地のキャンティ・クラシコを。
また、脂肪の甘みとコクが豊かな“サシ多めのステーキ”なら、ボルドーやカリフォルニアのカベルネ・ソーヴィニヨン主体の赤がおすすめ。タンニン(渋みの成分)が、肉の脂分を切るような効果を発揮するので、最高の組み合わせとなります。
アルザス名物!フォアグラのテリーヌ×極甘口の白ワイン
サシが多めのステーキにはタンニンのしっかりとした赤ワインでしたが、同じ脂肪濃厚系でも「フォアグラのテリーヌ」は冷製の料理でクリーミーな味わい。パートナーは異なってきます。
絶品のマリアージュを繰り出すものとして有名なのは、貴腐ワインのソーテルヌ。産地はちょっとズレてしまいますが、フランスでも定番の組み合わせです。アルザスにこだわるなら、ゲヴュツトラミネールなどの遅摘みの甘口ワインがあります。
そして、貴腐ワインのマリアージュ・パートナーとしてもう一つ有名なのは、ロックフォールチーズ。
青カビチーズの強い塩味と対極にある極甘口の化学反応。強いレベル感で上手に合わさるというのは、難しいパターンではありますが、“甘じょっぱい”組み合わせが大好きな日本人にも大人気のマリアージュ例です。
スパイシーコンビ!中華料理×ボルドーの赤
八角(スターアニス)や山椒などの東洋系スパイスに、黒胡椒や唐辛子の刺激…エスニック感もある中華料理には、同じようなアロマを持つ赤ワインを合わせるが定番です。例えば四川の「麻婆豆腐」に、実はメルローがぴったり。花椒の爽やかな刺激味や豆板醤のコクが、メルローの清涼感ある香りと果実の凝縮感がマッチします。
甘うま系の広東料理なら、熟成ボルドーがおすすめ。タンニンもこなれて果実味もいい感じに落ち着いたボルドーワインが、オイスターソースのコクと素晴らしいハーモニーを奏でます。
風味成分から合うワインを探るなら…
3つの基本法則のなかでも、奥が深くて難しいのは風味成分の法則だと思います。経験を重ねていくことが必要なので一歩一歩にはなりますが、少しでもそのステップを早められるよう、最後にワインのタイプ別のマトリックスを紹介します。
白・赤・ロゼ・スパークリングとワインのタイプ別のマトリックスがあり、酸味、フルーティ感(果実味)、渋味や苦味などのポイントから、より具体的なワインを探せるようになっています。
■ワインマトリックスは こちら
時間をかけて生まれる熟成感や、独特のブドウやワイン醸造法から生まれる甘味も、ペアリングやマリアージュには重要なポイント。まずは基本の3つの法則を頭に入れつつ、いろいろな組み合わせを試してみてください。