同じブドウ品種から造られたワインであっても、産地、造り手、ヴィンテージ(収穫年)、熟成、保存管理などによって、ワインの風味は大きく異なります。
でも、品種とそのブドウが造られた産地の特徴を知っておくと、どんな香りや味わいのワインなのかを判断する大まかな目安となり、自分好みのワインを選ぶ時にとても役に立ちます。
シリーズで展開している【テロワールでどう違う?主要産地別の品種ワインの特徴】。今回のテーマ品種は、シラーです。オーストラリアなどではシラーズと呼ばれるこの品種自体が持つ主な特徴からまずは確認していきましょう。
この記事の目次
シラー/シラーズの主な特徴
シラー(シラーズ)は、カベルネ・ソーヴィニヨンと双璧をなす“渋みしっかり系”黒ブドウ品種。単一でもブレンドでもワインが造られるといったところも、カベルネ・ソーヴィニヨンと似ています。
シラーのルーツと歴史
原産はフランスのコート・デュ・ローヌ地方。近年のDNA解析の研究では、なんとピノ・ノワールと繋がりがあるらしいのですが、ブドウの特徴としては、小粒であること以外はほぼ真逆。
果皮がぶ厚く、若干青みがかった濃い色。タンニンは中庸の強さで、酸は強め。しっかりとした品種の個性がありながらも、テロワールの影響を色濃く反映したワインが出来あがります。
栽培が比較的容易であるため世界中で栽培され、栽培面積は世界6位(※2010年O.I.V.データ)。1990年から2010年の20年間で栽培面積が5倍以上に増えた、人気上昇傾向の黒ブドウです。
シラー 品種由来の風味
産地によって異なる風味については、後ほど詳しくご紹介しますが、品種由来の主な特徴としては以下のようなものが挙げられます。
香り 黒いベリー、プラム、黒胡椒、ドライハーブ、ビターチョコレート
味わい しっかりした渋み、力強い果実味
おおむね、濃い紫を帯びたガーネット色で、力強い味わいの赤ワインになりますが、それではシラー(シラーズ)の主要産地別に主な特徴を見ていきましょう。
フランス:ローヌ北部、ラングドックほか
フランスとオーストラリアが二大産地と呼ばれているシラーですが、原産地でもあるこのコート・デュ・ローヌ地方の北部は、まさに世界を代表するシラーの産地。ここでは「セリーヌ(Serine)」と呼ばれることもあります。
北部は急峻な斜面からなる渓谷で、AOCで認可されている唯一の黒ブドウ品種がシラー。挽きたての黒胡椒のようなスパイシーな香りが特徴的で、ブラックベリーやプラムの香りもあり、酸味や渋みが豊かなワインが造られています。
そのほか、ブラックオリーブやなめし革などの動物性のアロマなど複雑さを感じるワインがある一方で、少量のヴィオニエを混醸し、シラーのスパイシーさをやわらげ、花の香りなどのワインのアロマを強めたエレガントなワインもあります。
代表格のエルミタージュ、“焼け焦げた丘”という意味を持つコート・ロティ、シラー100%の赤ワインのみ認められているコルナスといったAOCのワインは、長熟で高品質なシラーとして世界的に有名です。
ローヌ地方の南部はなだらかな平地や丘陵地で、グルナッシュを主として、シラーやムールヴェードルなど多くの品種をブレンドした赤が多く造られています。こうしたブレンドにおいて、シラーは骨格と気品をワインに与える重要な役割を担っています。
コート・デュ・ローヌ地方のワインについてさらに知りたい方は、【ヴィオニエ】テロワールでどう違う?主要産地別の品種ワインの特徴 もぜひチェック!
プロヴァンス地方やラングドック地方でも、シラーは重要な黒ブドウ品種です。こうした地中海沿岸の南フランス一帯でも、ローヌ地方の南部と同様、グルナッシュやムールヴェードル、カリニャンなどとブレンドし、長期熟成が可能な骨格のある赤ワインが多く造られています。
オーストラリア:バロッサ・ヴァレーほか
オーストラリアにシラー種が持ち込まれたのは、19世紀前半。バロッサ・ヴァレーのワイナリーが所有する1843年植栽のシラーが、オーストラリア最古のワイン用ブドウと言われています。
200年近くの時を経て、「シラーズ(Shiraz)」という呼び名に変わりながら、今やオーストラリアの黒ブドウでは、栽培面積、生産量ともにNo.1。フランスと双璧をなす世界的な産地となったわけです。
オーストラリアのシラーズは、黒胡椒などのスパイスのニュアンスもありますが、ブラックベリーやビターチョコレートなどの香りが前面に出ているのが特徴。濃厚な果実味があり、渋みもしっかりありますが、ローヌのシラーと比べるとなめらかな印象です。
力強い果実の豊かなバロッサ・ヴァレーのシラーズが代表格ではありますが、広大なオーストラリアの多様なテロワールにも順応。さらに、ローヌ北部のようなヴィオニエとの混醸のスタイルや若い造り手が手がける全房発酵のワインもあり、デイリーワインから最高級ワインまで多種多様なシラーズが、現在は造られています。
イタリア:トスカーナ州、シチリア州
フランスとオーストラリアが二大産地となりますが、土着品種によるワイン造りに長けたイタリアでも、シラーは重要品種。特にトスカーナ州やシチリア州では高品質なシラーが多く生み出されています。
キアンティで有名なトスカーナ州ですが、モンテプルチアーノやコルトーナなどのやや冷涼な地域で、香りも味わいも上品なシラーの赤ワインが造られています。サンジョヴェーゼやカベルネ・ソーヴィニヨンなどとブレンドされたものも多くあります。
また、ネロ・ダーヴォラやネレッロ・マスカレーゼといった魅力あふれる地場の黒ブドウがあるシチリア州でも、シラーのワインはよく造られています。地中海性気候のど真ん中にあるテロワールのおかげか、酸味、果実味、渋み(タンニン)のバランスがよく取れ、飲みやすいシラーが楽しめます。
アメリカ:カリフォルニア州、ワシントン州
地中海性気候でも魅力を存分に発揮するシラー。イタリアのみならず、アメリカのカリフォルニア州でもそれは同じで、2018年の栽培面積で言えば、カベルネ・ソーヴィニヨン、ピノ・ノワール、ジンファンデル、メルローという王道の黒ブドウ4品種に次ぐ、第5位につけています。
カリフォルニア州には色々な味わいのシラーがありますが、果実味と渋みがしっかりしつつ、黒胡椒のスパイシーさもカギとなる赤ワインが多く造られています。
ワシントン州でも、実はカベルネ・ソーヴィニヨンとメルローに次ぐ、第3位。シラーを含めた3種が黒ブドウの三大品種となっていて、ヤキマ・ヴァレーやワラワラ・ヴァレーといった主要エリアで多く栽培されています。
冷涼なワシントン州のシラーは、ブラックベリーやカシスなどのアロマがあり、心地よい酸味とともに複雑な味わいがあるものが多く造られています。
スペイン、チリ、アルゼンチン、南アフリカ、そして日本や中国でも注目!
シラーは温暖なテロワールを主としつつも、やや冷涼なエリアでも栽培でき、それぞれに応じて、若いうちから飲んでも熟成させても異なる魅力を見せてくれる品種。その万能さのおかげで、2000年以降、主要産地以外でも栽培面積を増やしています。
南フランスやイタリアと地中海で繋がっているスペインでは、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローよりも多く栽培されていて、黒ブドウでは第6位。(※MAPA スペイン農業漁業食糧省 2019年7月発表)
大西洋を渡ったチリでは、国際品種の中ではなんとシャルドネに次ぐ栽培面積で、温暖な主要産地のみならず、サン・アントニオ・ヴァレーやエルキ・ヴァレーなどの冷涼地では、黒胡椒の香りがしっかりした、北部ローヌのようなエレガントなシラーも造られています。
同じ南米のアルゼンチンでも、カベルネ・ソーヴィニヨンに近い栽培面積があり、主要産地のクージョ地方のメンドーサなどで、マルベックやカベルネ・ソーヴィニヨンとブレンドした味わい豊かな赤ワインやロゼワインが多く造られています。
ヨーロッパのオーストリアでは最近になってシラーに注目が集まるようになり、成功を収めている国際品種の一つとなっており、国際品種への取り組みが目覚ましい南アフリカでは、北部ローヌのようにヴィオニエを使って複雑さを出したブレンドのシラーも造られています。
そしてアジアでも今、シラーは注目品種。
日本では、長野県の桔梗ヶ原ワインバレーや千曲川ワインバレーなどで、近年シラーが増えていて、“ネクスト・メルロー”としての期待も高まっています。
そして、お隣の中国。世界第7位のワイン生産量を誇るこの広大な国でも、シラーの栽培は行われていて、“中国のボルドー”とも“中国のナパ・ヴァレー”とも称されている賀蘭山(ガランサン)東麓を擁する寧夏回族(ネイカカイゾク)自治区では、フルボディの味わい深いシラーが造られています。
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ブドウは農作物。工業製品ではないので、育まれる土壌やその土地の気候などの影響をダイレクトに受け、毎回同じものが作られるわけではないので、当然ワインもその特徴を引き継ぎます。
様々な要素をすべて把握するのは一朝一夕にできることではありませんが、世界各国のシラーを色々と飲み比べて、ぜひお気に入りの1本を見つけてみてください。