同じブドウ品種から造られたワインであっても、産地、造り手、ヴィンテージ(収穫年)、熟成、保存管理などによって、ワインの風味は大きく異なります。
でも、品種とそのブドウが造られた産地の特徴を知っておくと、どんな香りや味わいのワインなのかを判断する大まかな目安となり、自分好みのワインを選ぶ時にとても役に立ちます。
シリーズで展開している【テロワールでどう違う?主要産地別の品種ワインの特徴】。今回のテーマ品種は、リースリングです。世界中のワイン愛好家の心を捉えて離さないこの品種自体が持つ主な特徴からまずは確認していきましょう。
この記事の目次
リースリングの主な特徴
キリッとしたスパークリング(ゼクト)、ミネラル感溢れるものからコク豊かなものまである辛口、爽やかな甘口、そして、アイスワイン、貴腐ワイン…と多彩なワインを生み出してくれるリースリングのワイン。
その味わいのバラエティを支えているのが、リースリングというブドウの豊かな酸。世界中で広く栽培されているシャルドネに対し、限られた冷涼な土地でしかその本領を発揮しないという気難しい一面も併せもちます。
リースリングのルーツと歴史
リースリングは古くは15世紀頃の文献にも登場し、歴史のある白ブドウ。ドイツ・ライン川の上流が原産地とされていて、地場品種の自然交雑から誕生したと考えられています。
果実は丸型で小さく、晩熟。リースリングに不可欠な酸は、冷涼な気候や標高の高さ、昼夜の寒暖差といった生産地の特徴(テロワール)が大きく関係して生まれます。
ドイツからフランス・アルザス地方にリースリングが入ってきたのが15世紀。その後19世紀になると、世界各地の冷涼なテロワールのもと、広く栽培が行われるようになりましたが、現在でも世界の総栽培面積で見るとブドウ全体の約0.8%と割と希少なブドウです。
リースリング 品種由来の風味
産地によって異なる風味の特徴については、後ほど詳しくご紹介しますが、品種由来の主な特徴としては以下のようなものが挙げられます。
香り ライム、レモン、リンゴ、洋梨、桃、ハチミツ、ジャスミン
味わい 凛とした上品な酸味、凝縮感があり味わいの余韻も長め
「リースリング=ペトロール香」とは限らない!
「リースリング=石油のようなオイル香(ペトロール香)やセルロイドのようなにおいがある」とよく言われますが、そうとは限りません。
確かにリースリングのワインに出やすいアロマではあるのですが、絶対ではありません。むしろ、近年では強いペトロール香はオフフレーバー(異臭)だと捉える生産者も多くいます。
水不足の暑い環境下で生育したブドウを原料としたり、特定の酵母を使って発酵させたり、長い熟成を経たり、比較的高い温度環境下で保管されたりするとペトロール香は増える傾向にあり、どんなワインにも含まれる可能性があるのです。
それではリースリングの主要産地別に主な特徴を見ていきましょう。
ドイツ:モーゼル、ラインガウ
リースリングの最大の栽培地は、原産地でもあるドイツです。世界のリースリングの約半分はドイツで栽培されているというほどで、特にドイツの二大産地と言われるモーゼルとラインガウでは高品質なワインが造られています。
様々な味わいの白ワインが造られていますが、伝統的なもので、近年主流になっているタイプは辛口。キリッとした酸味とともに、リンゴや洋梨、桃などの果実のアロマがあり、熟成とともにオイリーなニュアンスが出てくるものもあります。長期熟成をさせた上質なものは、じんわりとした旨みがあり、余韻が長いのが特長です。
そして、ブドウの熟度によってバラエティに富んだ甘口ワインが造られます。カビネットなどのフレッシュな甘口はリンゴなどのアロマがあり、熟成とともにハチミツなどのふくよかなフレーバーが増してきます。
また、凍結したブドウや貴腐ブドウから造られる極甘口のものもあり、いずれも品種特有の酸味のおかげで、ベタつかず透明感のある甘味となっています。
フランス:アルザス地方
アルザスのリースリングワインの多くは、キリッとした辛口タイプ。青リンゴやレモン、ハチミツのようなアロマがあり、シャープな酸味と舌をキュッと締めつけるようなミネラル感が大きな特長です。
ドイツでも同様なのですが、ワインをまろやかにするマロラクティック発酵もあまり行われず、大樽(古樽)を使った発酵・熟成が多用されてきました。ただし、近年では生産者によってステンレスタンクを使ったり、マロラクティック発酵を行ったりすることもあり、スタイルが多様化しています。
またアルザスでも、遅摘みしたブドウ(ヴァンダンジュ・タルディヴ)や貴腐ブドウ(セレクション・ド・グラン・ノーブル)から造られる甘口ワインが造られています。
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オーストラリア:クレア・ヴァレー
近年メキメキと評価を上げている産地が、オーストラリア南部のクレア・ヴァレー。地中海性気候に区分され、リースリングの二大産地であるドイツとフランスのアルザス地方ほど冷涼な気候ではない生産地ですが、標高の高さと昼夜の寒暖差のおかげで、上質なリースリングワインを生み出しています。
品種の特性でもあるシャープな酸味は十分にありますが、ドイツやアルザスなどの伝統産地のリースリングに比べると酸味はおだやかなものが多い印象です。熟成が若いものはフレッシュ&フルーティーで、ライムの香りが特徴的。なかにはバラやジャスミンなどのアロマも加わり、熟成とともに複雑な風味を持つものもあります。
クレア・ヴァレーのほかにも、イーデン・ヴァレーがリースリングの産地として知られています。
中欧から東欧、そしてアメリカ北部、カナダ・・・世界の冷涼地が舞台!
ドイツのお隣、オーストリアでは、近年リースリングの生産量が増加しており、ヴァッハウとカンプタールが有名産地。ヴァッハウのドナウ川やカンプタールのカンプ川の影響、水はけの良い土壌から、凝縮感のある辛口ワインが造られています。
スロバキア、クロアチア、チェコなどの東ヨーロッパ諸国では「リズリング」と呼ばれ、DNA上は関係のない「リースリング・イタリコ」と区別をつけるために、「ライン・リースリング」や「ホワイト・リースリング」と呼ばれることもあります。
ワイン大国アメリカでも各地でリースリングワインが造られていますが、中でも有名なのがニューヨーク州。西の内陸、カナダとの国境にフィンガーレイクスという産地があります。夏は湖からの涼しい風が吹き込み、冬には気温が下がりすぎることや霜を防いでくれるという場所です。
アルザスよりは温暖で、オーストラリアより冷涼な気候から生まれるワインは、果実味がほどよく、しなやかな酸が心地よいのが特長。和食のような比較的さっぱりとした食事との相性もよく、昨今の食のライト化のトレンドにも合致しています。
「No Riesling, No Life.」というキャッチーな言葉とともに、リースリングが世界に広まったイベント「リースリングリング」もニューヨークが発祥。詳しくは【リースリング】は複雑だから面白い!NYのソムリエも語るその魅力とは?をチェックしてみてください。
また、西海岸北部のワシントン州やカナダでは、アイスワインなどの甘口のワインが多く造られています。寒冷地ならではの心地よい甘さと酸のバランスが秀逸です。
ブドウは農作物。工業製品ではないので、育まれる土壌やその土地の気候などの影響をダイレクトに受け、毎回同じものが作られるわけではないので、当然ワインもその特徴を引き継ぎます。
様々な要素をすべて把握するのは一朝一夕にできることではありませんが、世界各国のリースリングを色々と飲み比べて、ぜひお気に入りの1本を見つけてみてください。
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