同じブドウ品種から造られたワインであっても、産地、造り手、ヴィンテージ(収穫年)、熟成、保存管理などによって、ワインの風味は大きく異なります。
でも、品種とそのブドウが造られた産地の特徴を知っておくと、どんな香りや味わいのワインなのかを判断する大まかな目安となり、自分好みのワインを選ぶ時にとても役に立ちます。
シリーズで展開している【テロワールでどう違う?主要産地別の品種ワインの特徴】。今回のテーマ品種は、ピノ・ノワールです。世界中のワイン愛好家の心を捉えて離さないこの品種自体が持つ主な特徴からまずは確認していきましょう。
この記事の目次
ピノ・ノワールの主な特徴
ピノ・ノワールは、カベルネ・ソーヴィニヨンと人気を二分する黒ブドウ品種。かの有名な「ロマネ・コンティ」を筆頭に、色は淡く、渋みは穏やかで、繊細な芳香を漂わせる赤ワインが造られます。また、シャンパンを造るブドウ品種の一つとしても有名です。
ピノ・ノワールのルーツと歴史
原産地は、フランス・ブルゴーニュ地方。ピノ・ノワールは4世紀頃には栽培が行われていたとされる歴史のあるブドウで、突然変異しやすいのが特徴の一つ。ピノ・ブランやピノ・グリだけでなく、シャルドネやソーヴィニヨン・ブラン、さらにシラーといった名だたる国際品種のブドウのルーツだということもDNA解析などの研究から明らかになってきています。
小粒で皮が薄い実がびっしり付いた小さめの房で、その姿が松ぼっくりのように見えることから「ピノ(松)・ノワール(黒)」と呼ばれるようになったのだとか。
他の品種よりも比較的早熟なピノ・ノワールは、寒さには強いのですが、病害にかかりやすいため生育が難しい品種。そのため、原産地以外では難しいと言われていましたが、品種特有の上品な風味に魅せられた人々が世界中に現れ、今では各地で栽培されている国際品種の一つとなっています(栽培面積は世界10位 ※2010年O.I.V.データ)。
ピノ・ノワール 品種由来の風味
ピノ・ノワールの赤ワインが世界の人々を魅了する最大の要因は、芳しいアロマと繊細な酸でしょう。また、渋みがマイルドな点も重要です。
産地によって異なる風味の特徴については、後ほど詳しくご紹介しますが、品種由来の主な特徴としては以下のようなものが挙げられます。
香り イチゴ、ラズベリー、レッドチェリー、紅茶、キノコ、クローブ
味わい チャーミングな酸味と果実味、穏やかな渋み
繊細な芳香はもちろん、その風味をバランスよく堪能するために作られたのが「ブルゴーニュ・グラス」。ポッテリとしたふくらみがある大ぶりな形で、口元に向かってすぼまっているのがブルゴーニュ・グラスの特長です。
他の黒ブドウと比べると、果皮が薄く、含まれる成分も薄いこともあり、淡い色合いをしたタンニンの少ない赤ワインになりますが、近年の地球温暖化の影響や醸造技術の発展により、色合いがしっかりした、そこそこ渋みもあるピノ・ノワールのワインも造られています。
それではピノ・ノワールの主要産地別に主な特徴を見ていきましょう。
フランス:ブルゴーニュ地方
原産地でもあるブルゴーニュ地方では、凛とした酸味とまろやかな渋みのバランスがよく、赤いベリーの芳香を漂わせるエレガントなワインが多く造られています。
繊細な品種ゆえ、他のブドウ以上にその年の気候や畑などによって多様になりますが、果実味やアルコール度数は控えめで、樽由来のバニラの香りや熟成による紅茶などの香りも繊細で、複雑性が感じられるワインが多いというのも特徴です。
3,000円台で比較的購入しやすいAOC(原産地呼称統制)のものもあれば、ブルゴーニュファン垂涎の超高級ワインも。ブルゴーニュのピノ・ノワールは熟成の変化による飲み頃の見極めが難しいものも多いので、まさにソムリエの腕が鳴るワインと言えるでしょう。
シャンパーニュ地方
ピノ・ノワールはシャンパンの主要3品種の一つ。その中では栽培面積が最も大きく、味わいにボディと骨格をもたらすとあって、まさにシャンパンのブドウの代表選手となっている品種です。
白ブドウのシャルドネのみで造られるブラン・ド・ブランはキレのある味わいが魅力ですが、黒ブドウのピノ・ノワールの果汁から造られるブラン・ド・ノワールは、深みやコクがあるシャンパンに。鴨肉のローストや煮込み料理にも負けない味わいがあります。
シャンパンが好きな方は【シャンパーニュデイ特集】シャンパンのツウになろう!もチェック!基本からツウな話までご紹介しています。
アルザス地方・ロワール地方ほか
ブルゴーニュより北にあるアルザス地方は、さらに冷涼なテロワール。自然派の栽培や醸造が基本で、よりキリッとした酸味が感じられるものが多く造られます。
ブルゴーニュの西側に隣接しているロワールの中流域、サントル・ニヴェルネなどでは、透明感のある軽やかなものが多く造られていますし、そのほか、東側のアルプスエリアにあるジュラ地方では「グロ・ノワリアン」という品種名で呼ばれ、多くはありませんが生き生きとした酸味のあるワインが造られています。
アメリカ:カリフォルニア州
フランスに次いでピノ・ノワールの栽培面積が広いのが、アメリカ。ワイン生産が盛んなカリフォルニアは、ピノ・ノワールのワインにおいても一大産地です。
フランス各地のものと比べると、酸味はやや穏やかで渋みも感じられ、赤いベリーの果実味が豊かなものが多いのが特徴。ただし、太平洋を流れる寒流や霧とともに複雑で入り組んだ地形が為せる微気候(マイクロクライメイト)の影響を受け、近年はエレガントなピノ・ノワールも数多く造られています。
オレゴン州・ワシントン州
カリフォルニアの北に位置する、オレゴン州とワシントン州もピノ・ノワール人気が高い名産地。特にオレゴン州は「オレピノ(オレゴンのピノ・ノワール)」なんていう言葉が聞かれるくらい、代表的な品種となっています。
広いカリフォルニアでは畑や造り手によって様々なピノ・ノワールがありますが、オレゴンやワシントンのものは、伸びやかな酸味があるのが特徴。熟成とともに、土っぽさやスパイス感も現れ、複雑さを増すものが多く造られています。
ニュージーランド
南半球のニュージーランドは、ヨーロッパ以外で最初にピノ・ノワールで成功したと言われている代表的な産地。
気候も土壌もブルゴーニュに近いという調査結果が出た北島のマーティンボロや、世界最南端のワイン産地である南島のセントラル・オタゴでは、どこかフレッシュハーブを思わせるアロマを伴ったピノ・ノワールが造られています。
オーストラリア
ニュージーランドの隣国、オーストラリアは灼熱の太陽と乾燥した気候のイメージがあるかもしれませんが、南部ヴィクトリア州のヤラ・ヴァレーやタスマニア島は、冷涼な気候。その影響から、酸味を伴った果実味と繊細な渋みが絶妙なバランスで、凝縮感も感じられるワインが多く造られています。
ピノ・ノワールの産地として、近年ワインの品質と知名度をメキメキと上げている注目の産地です。
ドイツ、イタリア、チリ、南アフリカ、日本・・・世界各国で注目!
ピノ・ノワールを「シュペート・ブルグンダー」と呼ぶドイツも、伝統的な産地。同じドイツ語圏のオーストリアでは「ブラウブルグンダー」「ブラウアー・ブルグンダー」と呼ばれています。
ドイツ南部のバーデンやファルツでは、隣接しているフランス・アルザス地方で造られるピノ・ノワールの味わいに近い、酸が効いた軽やかなものもあれば、成分抽出や樽熟をしっかりと行った飲みごたえのあるものも造られています。
イタリアでは「ピノ・ネロ」と呼ばれ、フランチャコルタ(シャンパンと同じ瓶内二次発酵のスパークリングワイン)の主要品種となっています。
南米のチリでは、中部のカサブランカ・ヴァレーなどでピノ・ノワールの栽培が盛ん。他国の産地よりもグッと色合いが濃く、果実味がしっかりしているのが特徴的です。海からの風と霧の影響で比較的冷涼な気候と言えるエリアですが、海風がブドウの果皮を厚くするために、色や味わいの濃いピノ・ノワールができると言われています。
フランスからも多くの造り手が参画し、新たな可能性が追求されている南アフリカでも、ピノ・ノワールは注目品種。スティルワインはもちろん、シャンパンのようなエレガントなスパークリングワインも造られています。
日本でも多くはありませんが、魅惑的なピノ・ノワールに挑戦する生産者が増えています。冷涼な北海道が最も多く、青森や長野などでも造られています。
ブドウは農作物。工業製品ではないので、育まれる土壌やその土地の気候などの影響をダイレクトに受け、毎回同じものが作られるわけではないので、当然ワインもその特徴を引き継ぎます。
様々な要素をすべて把握するのは一朝一夕にできることではありませんが、世界各国のピノ・ノワールを色々と飲み比べて、ぜひお気に入りの1本を見つけてみてください。
渋みが穏やかな赤ワインが好きな方はピノ・ノワール以外の品種のワインもおすすめ。【自分好みのワインを知るための品種のハナシ】渋み少なめの赤ワインを選ぶには もぜひチェック!