好みのワインを知るには「品種」を知る。
よく言われるハナシですね。「とりあえず赤ワイン用3種類、白ワイン用3種類の計6種類の品種は押さえましょう!」なんて言う人もいます。
もちろん品種だけでワインの味が“確定”するわけではないのですが、大まかな味の「方向性」は決まってくるので、この説を否定するつもりはありません。ですが、この6種類の中で、それだけでは好みのワインにたどり着けない可能性が大きい品種が一つあります。
それは「シャルドネ」。おそらく日本人が一番知っているブドウ品種で、おそらく日本人に一番人気のある品種かと思います。「ほかの品種は知らないけど、シャルドネだけは知っている!」という人も多いのではないでしょうか。
そんな人気と知名度を誇るシャルドネ。そのブドウが、品種の特徴を知っているだけでは好きな味にたどり着けないなんて…厄介ですね。
今回は、品種の特徴以外に押さえておきたいポイントをお伝えします。これがわかれば、今後のあなたのワインライフがもっともっと充実したものになること、間違いなし!です。
この記事の目次
シャルドネのワインってどんな味わい?
「シャルドネ」は、白ブドウの王様とも称されるくらいメジャーなブドウ品種です。では「シャルドネから造られるワインってどんな風味?」と聞かれたら、どのように答えるでしょうか?
「すっきりしていて飲みやすい!」という人もいれば「コクがあってまろやかでおいしい!」と答える人もいます。
ん?待て待て!この2つの味わいって、相反しませんか?フルーツで言ったら、レモンとマンゴーぐらい違う。豚肉で言ったらポン酢でいただく豚しゃぶと、とろとろの角煮ぐらい違う。
人の味覚は十人十色ではあるけれど、ここまで180度印象が違うことって…あり得ませんよね。その理由を探る前に、「シャルドネ」というブドウにはどんな特徴があるでしょうか。
冒頭の「まずはこの6品種を押さえておけ!」のような話の中で、品種の特徴を説明している本やサイトをよく見かけますが、某有名経済紙のサイトでは、品種の説明を「女の子」でされていました。その方の「シャルドネちゃん」は、「何にでもすぐ染まってしまう無個性女子」というキャラクターでした。めちゃめちゃ納得です。
シャルドネという品種はよく「特徴がないのが特徴だよね」と言われます。
「特徴がないのが特徴」。音で聞いたときは、普通に「特徴」という漢字をあてはめましたが、もしかしたら後の方のトクチョウは「特長」かもしれません。無個性というとネガティブなイメージになるかと思いますが、誰にでもなじめるキャラクターって、人でも貴重な存在だと思います。
栽培環境で大きく異なる「ブドウの樹」
ワインの原料であるブドウは農作物です。農作物である以上、気候や土壌が、実る作物に大いに影響を与えます。作物の種類にもよりますが、多くの作物は、程よい気温と程よい降雨量があり、そして有機物が豊富な肥沃な土壌でよく育ちます。
例えば、現在は品種改良のおかげで北海道でも稲作は行われていますが、それまでは気温が低すぎて稲が育たず、かわりに広大なジャガイモ畑が広がっていました。沖縄では、有機物の乏しい粘土質の土壌がほとんどなので稲作に適していないと言われ、暑い気候を生かしてサトウキビ畑が広がっています。逆に本州は、多量な降雨にもかかわらず国土の7割近い山岳地帯が降雨をせき止め、恵まれた肥沃な土壌の平地には程よい水分を与えて、昔から稲作が盛んな地域です。
同じ「ブドウ」という作物の同じ「シャルドネ」という品種でも、ジャガイモとサトウキビくらい異なる作物になる、ということです(いや、ここまで違うことはないか…)。
「テロワール」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。厳密な日本語に訳すことが難しいフランス語ですが、ブドウの樹を取り巻くすべての環境を意味しています。気候風土から土壌まで。
先述の通り、農作物は栽培環境に影響されますが、ワインにおいて殊さら「テロワール」という言葉が出てくるのは、ブドウという植物は特に栽培環境に影響されやすく、ひいてはワインのキャラクターにも影響するからです。男爵とメークインは味も形も異なりますが、北海道の男爵と長崎の男爵の味はそれほど違いがありません。しかし「シャルドネ」は産地によって雰囲気が異なるのです。
「すっきり系シャルドネ」の代表は、この品種の生まれ故郷のワイン
「すっきりしていて飲みやすい!」というシャルドネは、冷涼な地域で造られたワインでしょう。例えば「シャブリ」。これは、フランスのブルゴーニュ地方シャブリ地区で造られる超ド級に有名な、シャルドネから造られる白ワインです。
シャブリ地区はどこにあるかというと、パリからおよそ南東に180km、パリ市内を流れる優雅なセーヌ川の上流地域にあります。北緯47度。北海道の稚内が北緯45度、ブドウの栽培地域の北限が北緯50度と言われているので、かなり冷涼な地域であることが想像できるかと思います(緯度の高さと気温の低さは比例せず、稚内よりもシャブリ地区の方が年間平均気温は5度ほど高いですが)。
「シャブリ」について興味がある方は、この記事もどうぞ!
■「シャブリ」という名前のワインがいっぱいあるワケ
冷涼な気候で育つブドウは、シャルドネに限らず、酸度が高くなり、逆に糖度が上がりにくい傾向になります。
加えて「シャブリ」は、かなり特徴的な土壌が広がる地域で、石灰岩質の中でもまた特異なキンメリジャンと呼ばれる土壌で、豊富なミネラルを含みます。この土壌のミネラルがブドウの生育にも何かしらの影響を与えていると言われています。
ミネラル…どういう風味になるのか、ということは議論され続けて久しいですが、ここでは厳密な「ミネラル」の定義は脇に置いておいて、「すっきり」と「まろやか」の相反する2つの味わいを説明するためにあえてわかりやすく例えます。
硬水と軟水です。ミネラルを多く含むワインは、コントレックスのような硬水をイメージするとわかりやすいでしょう。硬水は文字の通り、硬さを感じます。硬さは、温度でいえば冷たいイメージにもなります。そして、しゅっと引き締まったイメージになります。
つまり「シャブリ」は、冷涼かつ特殊な土壌から造られるワインなので、酸がきれいに効き、引き締まった味わいのワインになる、ということなのです。
「まろやか系シャルドネ」の代表は、この品種の生産量世界第2位の国のワイン
一方、「コクがあってまろやかで美味しい!」というシャルドネは、比較的温暖な地域で造られたワインでしょう。例えば、カリフォルニアのシャルドネのワイン。カリフォルニアもシャルドネの栽培が盛んな地域で、今現在フランスに次いで世界第2位の生産量を誇る地域です。
カリフォルニアワインの基本については、こちら!
■【カリフォルニアワイン】基本からトレンドまで。編集部おすすめの10本も紹介!
一日を通して過ごしやすい穏やかな気候の地域で育つブドウは、冷涼な気候のそれとは真逆で、酸度が上がりにくく糖度が上がりやすくなります。カリフォルニアでは、海岸沿いのエリアは割と冷涼なので、産地が内陸に行けば行くほど、豊満でパワフルなシャルドネワインになります。「シャブリ」とは真逆のキャラクターですよね。
カリフォルニアと言えば、有名な産地として「ナパ・ヴァレー」があります。南北に細長いカリフォルニア州の真ん中よりやや上(北)寄りにあるサンフランシスコから、北に約50kmの位置にあるナパ・ヴァレー。海寄りのエリアなので比較的冷涼な地域であり、夏の平均気温は最高28℃、最低13℃ほどになります。
それほど温暖とは言えないナパ・ヴァレーですが、ブドウの収穫時期(8月~9月)に雨がほとんど降らないので、しっかりブドウが熟しきるのを待って収穫できます。しっかり熟す=糖度が上がるので、パワフルなワインを造ることができます。
「染まりやすい無個性」は、いろんなキャラクターに変身できる
シャルドネ以外のブドウ品種でも、産地による違いは同様にあります。しかし、シャルドネがその違いを感じやすいのは、先述した通り「何にでもすぐ染まってしまう無個性女子」というキャラクターゆえ。産地の違いによるブドウの個性に造り手の思惑が掛け合わされて、世界中で様々な雰囲気のシャルドネワインが造られています。
「シャブリ」はその土地ならではの特徴を表現すべく、樽熟成はしても古樽でほんの少し。透き通るような素肌を持った女の子に過剰なお化粧は不要、というスタンスなのかもしれません。
カリフォルニアのシャルドネが、すべて厚みのある味わいのパワフルなワインではありませんが、そういったワインは、ジューシーさあふれるブドウに「樽熟成」のお化粧をプラスすることで、複雑な味わいのワインを表現しています。インド系の目鼻立ちの整った美女が、バッチリメイクしたような感じでしょうか。
これであなたも「シャルドネマスター」!
ワインはよく「ウンチクがウザい」と言われます。ですが、「飲むワインを外したくない」「おいしいワインに出合いたい」と思えば、品種に加えて産地の特徴も知っていた方が、その可能性がぐっと高くなることは間違いありません。すっきり系が好きならフランスのシャルドネ、まろやか系や好きならカリフォルニアのシャルドネ、これを知っているだけで、ワイン選びのハードルは少し下がるはずです。
今回はわかりやすく、国というレベルでの比較を紹介しましたが、もちろん、同じ国の産地違いでも異なる雰囲気を感じます。例えば、シャブリとムルソー。ムルソーは、シャブリと同じブルゴーニュ地方を代表するような有名白ワインです。国違いのシャルドネのワインを飲み比べの後は、同じ国の産地違いの飲み比べもぜひ試していただけたらと思います!
レストランで、ワインショップで、本当に自分好みの「シャルドネ」を選べるようになれたら、ますます楽しいワインライフになるはずです!