ワインがややこしいところは、そのカタカナ語が何を意味するものか分からないというのに加えて、それが「商品名」だとわかっても、同じ商品名の違うワインがたくさんあるところかな、と思います。
例えば「シャブリ」。有名な白ワインなので、これがワインの名前だということはご存じという方が多いと思います。実は「シャブリ」というワインはいろんな造り手(メーカー)がいるので、何種類もの「シャブリ」があるんですね。
ビールだったら、「商品名」と「メーカー」が1対1で結びつくのに。逆に「一番搾り」という商品名のビールを、キリンのみならずアサヒでもサントリーでも造っていたら大問題ですよね。なぜなら「商標登録」という制度で守られているから。
日本のビールのような単純なものではなさそうな「ワイン名」。今回は、「ワイン名」って何?というところを掘り下げたいと思います。
この記事の目次
伝統産地のワイン名は、ほぼ産地名!
みなさんがよく耳にし、知っている「ワイン名」って何でしょうか?冒頭の「シャブリ」のほかに「キャンティ」や「バローロ」、「ロマネ・コンティ」なども聞いたことはあるでしょうか。
これらすべて、「ワイン名」であると同時に「産地名」なんです。シャブリは、フランス・ブルゴーニュ地方の一番北にある地域の名前。日本でいうと、関東地方にある栃木県の那須町とかそんなレベル感でしょうか(那須は関東の最北にある町!)。
キャンティはイタリア・トスカーナ州のフィレンツェとシエナの間に広がる地方名。〇〇キャンティ村、というのがいくつも集まってキャンティ地方と呼ばれています。
キャンティ・クラシコやその他のキャンティ地方のワインについては こちら
バローロはイタリアの北部・ピエモンテ州にある村の名前。ワインの「バローロ」は、このバローロ村を含む周辺のいくつかの村で生産されています。
ロマネ・コンティに至っては、なんと「畑名」です!このワインを造るドメーヌ(醸造所)の名前でもありますが、ドメーヌ名も畑の名前から付けているということです。東京都渋谷区の〇〇さん家の畑、みたいな感じです。
「オールドワールド(旧世界)」という言葉がワインではよく出てきますが、これは「ニューワールド(新世界)」の対義語で、昔からワイン産地であったヨーロッパの国々を指します。大航海時代にヨーロッパの国々が自国から世界に飛び出し、たどり着いた地域でワインづくりを始めました。それらの国や、その時代の後からワインづくりを始めた国を「ニューワールド」と呼びます。
ワインとブランド和牛の共通点
地域名が商品名だなんて不思議な感覚になるかもしれませんが、私たち日本人にもなじみのあるネーミングかと思います。
よくあるのが「和牛」です。お笑いじゃないです(笑)。肉の方です。神戸牛や松阪牛、近江牛、米沢牛など有名なブランド牛たち。この「牛」の前についているのは、産地、ですね。ブランド名になっている産地で一定期間育てられた、条件を満たす牛だけが「ブランド牛」となるわけです。
この和牛とヨーロッパのワインは同じ概念かなと思います。「その土地で育つ」ということに意味がり、その地名が付いた牛肉にしろワインにしろ、品質が優れているから有名になるわけです。有名になると産地偽装が起こるのは、牛肉もワインも一緒です、残念ながら。
産地偽装から本物を守るために、その地名を名乗る牛肉もしくはワインには「規定」が存在します。牛肉の場合は、牛の種別とか出産を経験していないメス牛とか、もしかしたら餌にもルールがあるのかもしれません。
ワインの場合はもっと細かく厳しくて、ブドウの栽培産地や品種はもちろん、収穫量や醸造方法などまで規定されている場合がほとんどです。その規定を満たしていないワインは「シャブリ」にしろ「キャンティ」にしろ、その名を付けて販売できないのです。
そのようにして、産地偽装を防ぎ、本物の品質を担保しているんですね。
ちなみに「シャブリ」は、シャルドネを使った白ワインしか造れません。「キャンティ」はサンジョベーゼという黒ブドウ(皮が赤紫のブドウ)主体なので、赤ワインしかありません。赤ワインの「シャブリ」や白ワインの「キャンティ」はこの世の中に存在しないのです。なぜなら、その名を名乗るには、ワインを造るブドウ品種が決められているからです。
産地名がワイン名である理由
多くのワインがワインの生産地域=ブドウの栽培地域となるわけですが、地域名を掲げるワインのブドウ品種を限定している理由は、昔からそこでその品種が作られてきたから、というのもありますが、その地域の気候風土がその品種の特徴を表現し、その土地ならではのワインの味わいを造るから、と言われています。
「魚沼産」と言ったら何を思い浮かべるでしょうか?おそらく「お米」、もっと言うと「コシヒカリ」を想像するかと思います。新潟県の魚沼市(南魚沼市)がコシヒカリの産地として有名になったのは、(関係者のブランディング努力もあるとは思いますが…)おいしいコシヒカリができる産地だから、ではないでしょうか。
JAみなみ魚沼のwebサイトには、「清らかで豊富な雪解け水、滋味豊かな土壌、昼夜の寒暖差の大きい気候は、南魚沼産コシヒカリの栽培に最適な条件が揃っています。」と書かれています。
ワインは本当に単純な飲み物で、ブドウを潰して酵母を入れて発酵させただけでできてしまうお酒です。それゆえ、ブドウの出来がワインの出来に直結するといっても過言ではありません。その土地に適したブドウ品種を育ててワインを造る…魚沼で小麦じゃなくて米を作る理由と同じではないでしょうか。
その産地がおいしいお米、おいしいブドウやワインを造ることで有名になり、それがブランドになる。だからワイン(特にヨーロッパの)は、地域名が商品名なんですね。
「ここにしかないワイン」というご当地自慢
ワインラベルの一番大きい文字が「商品名」だとするならば、ニューワールドのそれは、造り手の名前がメインになっていたり、品種名がメインになっていたり、はたまた自分の娘の名前を付けたりと、産地名以外のものをよく目にします。造り手のこだわりや大事なものを商品名にする、消費者に分かりやすいネーミングにする…新しい造り手が、新しい考え方で名前を付けるのはいいことだと思います。
しかし伝統的には産地名がワイン名になっていることが多い。これは、地域の特産品を地域名とともにアピール、ブランディングしていることになるのかなと思います。その地域に住む人が、みんなで「シャブリ」を造る。「おいらの地元にはいいシャルドネができるんだ。それで造ったワインはおいしいよ!」と、ご当地自慢に近いのかなと。
日本でも「B級グルメ」というのが流行りました。その地域で昔から食べられている庶民フードが、実はほかの地域では食べられていなくて「なんでこんなにおいしいものが他の地域にはないんだ!」と自慢し合うイベントが引き金になって全国に知れ渡るようになりました。
ご当地自慢的にその地域でブドウを栽培しワインを醸造する。お隣さんもお向いさんも。だから、同じ商品名なのに違うラベルのワインが幾種類も存在するんですね。冒頭の例を再び出すと、「一番搾り」は商品ブランディング。一方「シャブリ」は地域ブランディングになるのかなと思います。
「シャブリ」という名前のワインはどれくらいあるのか
ちなみに「シャブリ」を造る生産者は347軒のドメーヌと1軒の協同組合があります(2013~2017年の5年間の平均数字。出典:http://www.chablis.jp/)。1軒で畑違いのシャブリを造っていることもあるので、347種類以上の「シャブリ」があるということです。
一口に「シャブリ」と言っても、畑のランクから生産者のこだわりまで様々あり、味わいも価格もピンキリ。それが、ワインの難しさでもあり面白さでもあるのかなと思います。ぜひいろんな「シャブリ」を味わってみて、ワインの面白さにどっぷりハマってみてください。
「シャブリ」を例にずっと語ってきましたが、「キャンティ」でも「バローロ」でも一緒です。ただ、「ロマネ・コンティ」だけは1社でしか生産していませんし、飲み比べどころか一口でも味わうことができたら…うらやましい限りです!