夏と海。リゾート地に行かなくても、ちょっとウキウキとした夏気分を家で楽しむために、ワインが一役買ってくれることがあります。
海の影響を受けて育まれるブドウから醸されるワインには、多様な魅力あり。「ワインは好きだけれど、家では時々しか飲まない」「ワインをどう選んで買ったらいいのかわからない」というビギナーの方にも夏気分を感じてもらえるように、“海ワイン”の話を今回はお届けしたいと思います。
日本ではもうすぐ「海の日」。まずはその話から始めましょう。
この記事の目次
7月唯一の祝日【海の日】とは?
東京オリンピック・パラリンピックの影響から、2021年は7月22日が「海の日」となっていますが、本来は7月の第3月曜日。7月唯一の国民の祝日です。
「海の恩恵に感謝するとともに、海洋国日本の繁栄を願う」という主旨のもと、1995年に「7月20日」に制定、1996年に施行されましたが、その後2003年に「7月の第3月曜日」に変更されました。
“海の恵みに感謝する日”ですから、海の影響を受けて生まれたワインをじっくり味わうのも素敵ではないでしょうか。
“海ワイン”ってどんな味わい?
海の影響を受けて生まれたワインを、今回は“海ワイン”と呼んでみたいと思います。“海ワイン”…みなさんはどんなイメージが湧きますか?
白ワインなら、ちょっと潮っぽさを感じるような、キュッと舌を引き締めるようなミネラル感があるもの。ロゼワインなら、果実味はあるけれど、冷やしてキリッと軽やかに楽しめるドライなもの…なんていうイメージが湧くでしょうか。いずれも、シーフードや夏野菜の料理に合いそうなワインです。
赤ワインは、どうでしょう?夏にはちょっとイメージがしづらいかもしれませんが、海のおかげで生まれる有名な赤ワインは、実はたくさんあります。海からの温暖な風の影響で冬でも暖かい気候は、ゆっくりじっくり熟すブドウに最適。その代表格が、世界No.1の栽培量を誇るカベルネ・ソーヴィニヨンです。
“海ワイン”を生み出してくれる気候には、海洋性気候と地中海性気候という2つのものがあります。そこで、それぞれの気候の特徴と代表的なワイン産地、さらに編集部おすすめのワインをご紹介します。
海洋性気候と代表的なワイン産地
海洋性気候は、海に近いエリアで、海と陸との間で吹く風が大きなポイント。その風の影響で、気温の差が少なく、降水量は多めで湿度も高いのが特徴です。
そのおかげで、秋から冬への移行がゆっくり。ブドウが最後にグッと熟していく時間が長く続くので、カベルネ・ソーヴィニヨンを代表とする晩熟型のブドウ品種にぴったりなのです。また海風の影響からか、どことなく潮っぽい味わいやミネラル感を感じる白ワインやロゼワインも生まれます。
フランス:ペイ・ナンテ地区
フランスの中央高地から大西洋に流れる大河、ロワール川。その河口に近いエリアは、大西洋の影響を大きく受ける海洋性気候です。ペイ・ナンテ地区のミュスカデ(別名:ムロン・ド・ブルゴーニュ)は必飲!牡蠣やシーフード料理のペアリングワインに最適です。
フランス:ボルドー
ロワールのペイ・ナンテ地区の南には、世界的銘醸地のボルドーあり!ガロンヌ川やジロンド川が大西洋に向かって流れているエリアです。大西洋沿岸を流れる暖かなメキシコ湾流の影響がここにも。大西洋とブドウ畑の間には広大な松林が広がり、海風が直接当たらないよう防いでくれています。
スペイン北部〜ボルトガル北西部
ボルドーからさらに大西洋を南西に向かっていくと、イベリア半島へ到着。スペイン北部、ガリシア地方、そしてポルトガル北西部が、同じく大西洋の暖流の影響を受けたワイン産地として有名です。
なかでも、ポルトガルの「ヴィーニョ・ヴェルデ」でおなじみの品種、アルヴァリーニョの白ワインがおすすめ。魚介のバーベキューやサラダにぴったりです。
オーストラリア:クナワラ
今度は一気に南半球のオセアニアへ移動。オーストラリア大陸の南東部、海岸線から直線で60km程度の距離にあるクナワラは、南半球にあるため季節こそ逆になりますが、気象統計を比較するとボルドーに似ているのだそう。
海の影響はもちろん、石灰岩質が混じった赤い粘土質「テラロッサ」という土壌もその個性を作り出していて、カベルネ・ソーヴィニヨンの銘醸地としても有名です。
ニュージーランド
オーストラリアのお隣、ニュージーランドは山岳もある島国で、大陸性気候のところもありますが、全般的には海洋性気候のワイン産地です。
そんなニュージーランドの代表選手は、ソーヴィニヨン・ブラン。グレープフルーツのようなフレーバーとハーブの香りは、夏に飲みたい“海ワイン”の一つ。スパークリングもおすすめです。
海洋性気候で有名な産地は、他にも南アフリカのステレンボッシュ、アメリカのオレゴンや東海岸のロングアイランドなどがあります。
地中海性気候と代表的なワイン産地
地中海性気候は、海洋性気候とは異なり、日照に恵まれ乾燥した気候。冬は穏やかで、雨量が増えるのが特徴です。ブドウの生育期間中は雨が少ないので病害も少なく、安定した成熟期を迎えることができます。
海そのものの影響というよりは、地中海のリゾート感や温暖なイメージが膨らむ“海ワイン”と言えるかもしれません。
イタリア
地中海に突き出た半島と島からなる国。北部のアルプスに近いエリアや山岳地帯は異なる気候となりますが、中南部を中心に、イタリアはほとんどが地中海の恵みを受けています。
もちろん、地中海に浮かぶ2つの島、サルデーニャとシチリアもワインの名産地。イタリアは全土にわたってブドウに適したテロワールがあり、郷土に根ざした品種もたくさんあります。
フランス・プロヴァンス
地中海に面したフランス・プロヴァンス地方は、なんと言ってもロゼ。かつては、“お土産ワイン”と揶揄されることもありましたが、近年は、キリッとドライな味わいで、色もエレガントで美しい上質なロゼワインがたくさん。和食にも合わせやすいので、夏の家飲みでも重宝するワインです。
スペイン南部
プロヴァンスからラングドック・ルーションを経て、スペインへ。地中海に面したカタルーニャ州では、日本でも大人気のカバの約99%が造られています。
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また、少し内陸に入ったプリオラートでは、地元品種のカリニェナとガルナッチャを生かしたモダンで高品質な赤ワインが造られ、今、世界から注目を集めています。
アメリカ・カリフォルニア
ヨーロッパを離れ、アメリカへ。西海岸のカリフォルニアの中南部は、温暖で比較的雨が少ない地中海性気候ですが、海流と地形の特性から発生する霧などの影響もあり、多様な微気候(マイクロ・クライメット)が存在しています。
とは言え、カリフォルニアの解放的な雰囲気は、夏の海のイメージにぴったり。地中海エリアでおなじみのグルナッシュのロゼも、一味違う良さがあります。
チリ
アメリカ大陸を南下し、南半球へ。南北に細長い国チリも、実は地中海性気候です。南極の方から北向きに流れるフンボルト海流の影響で、大気を冷却して海水が蒸発しないため、雲ができにくく降雨が少ない。さらに、寒流がもたらす涼しい海風のためブドウが病気になりにくいのだとか。
それゆえ、多種多様なブドウが生育。シラー、カルメネール、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、カリニャンの5品種をブレンドしたワインは、海のおかげで生まれたチリの特有のワインと言えるかもしれません。
その他、シャルドネで有名なマーガレットリヴァーがある西オーストラリアなども、地中海性気候のワイン産地にあたります。
【海の日】は、“海ワイン”を楽しもう!
世界の“海ワイン”を巡る旅、いかがでしたか。ワインを選びながら、また飲みながら、「海の日」は夏の旅気分も少し味わっていただけたらと思います。
「海の日」スペシャルということで、海洋性気候と地中海性気候について今回お伝えしましたが、ワインにとって大事な気候タイプは他に2つあります。海から離れた内陸部や山岳地帯に関連した気候となりますが、この2つの気候についても最後にご紹介しておきます。
■大陸性気候
昼と夜の気温の日較差、夏と冬の気温の年較差が大きく、季節の違いがはっきりとした気候。ブドウが十分に成熟する前に寒くなる年があるため、一般的に、ワインの品質は、ヴィンテージごとの差ができやすい。
代表的な産地:フランス・ブルゴーニュ、中央・東ヨーロッパの内陸各地。■山地気候
標高の高いブドウ栽培地域(標高500〜1,000m程度)は、平地と比べて気温は低いが、天候の変化が大きく、一般に風が強い。畑の位置や傾斜の違いにより、気温や日射量、降水量などの違いが大きい。
代表的な産地:フランス・ジュラ、サヴォア。日本・山梨、長野。※出典:2020 日本ソムリエ協会 教本