フランス北東部にあるアルザス地方。「どんな文化があるところ?」「どんなワインが造られている?」と訊かれても、サッと答えられない人も多いかと思います。
そこで「アルザスワインは飲んだことあるけれど、詳しくは知らない」という方のために、アルザスの基本や郷土性、クリスマスシーズンにぴったりのホットワインのこと、さらにはアルザスワインにまつわる最新情報もお伝えします。
この記事の目次
アルザスって、どんなところ?
教科書にも掲載されていたアルフォンス・ドーデの短編小説『最後の授業』をご存じでしょうか。
私がここで、フランス語の授業をするのは、これが最後です。普仏戦争でフランスが負けたため、アルザスはプロイセン領になり、ドイツ語しか教えてはいけないことになりました。これが、私のフランス語の、最後の授業です。(小説より一部抜粋)
フランス北東部に位置するアルザスは、長い歴史の中で幾度となくドイツ(ゲルマン)の領地となっていた地方。そのためワインのみならず、文化風習全般においてゲルマン文化の影響が色濃く、同じEU圏となった今では「アルザスに住み、ドイツで働く」という人も少なくありません。
アルザス地方の街はクリスマスマーケットでも有名ですが、建物を見ても、大きなクリスマスツリーを見ても、グリム童話のようなドイツのおとぎ話を思わせるものがあります。
ホットワインは和製英語!クリスマスにぴったりの「ヴァン・ショー」
クリスマスマーケットに欠かせない飲み物と言えば、ヴァン・ショー(Vin chaud)。日本では「ホットワイン」と呼ばれている、スパイスの香り豊かな温かいワインです。
ちなみに「ホットワイン」というのは、和製英語。英語では「マルドワイン(mulled wine)」、ドイツ語では「グリューワイン(Glühwein)」と言います。
赤ワインベースのものが主流ですが、白でもロゼでもOK。体を中から温めてくれるので、クリスマスの寒い季節には最適というわけです。
飲み残しのワインの活用にもぴったりですし、安価なワインでも十分。家で簡単に作れるレシピをご紹介します。
家で簡単に作れる!ヴァン・ショーの基本レシピ
材料(2人分)
赤ワイン 300cc
オレンジ 1/2個分(スライス)
レモンの皮 1/2個分(薄く削ったもの)
きび砂糖(グラニュー糖でも可) 40g
シナモンスティック 1/2本
八角(スターアニス) 1個
クローヴ 2個
作り方
1. 鍋にすべての材料を入れ、中火にかけて沸騰し始めたら火を止める。
2. 粗熱が取れたら、茶漉しなどでこす。
3. 飲む前に再び鍋に入れて温める。
味をなじませるために一度冷ますのがおすすめですが、作ってすぐに飲みたい場合は、沸騰したらすぐに弱火にし、3分ほど煮出してください。また、よりスパイシーな風味が好きな方は、粒の黒胡椒を2〜3粒プラスしてもOKです。
アルザスワインの基本、まる分かり!
アルザスはヴァン・ショー(ホットワイン)だけでなく、高品質なワインの生産地でもあります。
フランス北東部には南北に走るヴォージュ山脈と呼ばれる高地があり、その東側斜面を背に、アルザスのブドウ畑は広がっています。ヴォージュ山脈によって大西洋気圧変動から守られているため降水量は少なく、乾燥した半大陸性気候に分類されます。
ブドウ畑の標高は平均すると200〜400m。ブドウの木は高めに仕立てられ、畑は南もしくは南東に向いているところが多く、日照量を確保しながら、秋には温暖な日中と涼しい夜に恵まれるため、ゆっくりと時間をかけた成熟が促進されます。
土壌の多様性もあり、自然の恩恵を受けるアルザスのブドウからは、複雑なアロマが生まれます。造られるワインの90%以上は白ワインで、発酵や熟成にはステンレスタンクや長年使用された大樽が用いられるというのも大きな特徴です。
アルザスのブドウ品種
エレガントな爽やかさを持つリースリング、力強いアロマを放つゲヴェルツトラミネール、寛大な濃厚さが持ち味のピノ・グリ、華やかで洗練された果実味があるミュスカ。この4種は“四大高貴品種”とも呼ばれています。
純粋で力強い表現力を備えた特別なワインを生み出す51のリュー・ディ(小区画の畑)には、AOC(原産地呼称統制)のアルザス・グラン・クリュの認定がされていて、この四大高貴品種のブドウが使用されています。
アルザスの四大高貴品種については、以下の記事もチェック!
■【リースリング】は複雑だから面白い!NYのソムリエも語るその魅力とは?
■【ピノ・グリ/ピノ・グリージョ】テロワールでどう違う?主要産地別の品種ワインの特徴
ピノ・ノワールを使った上質な赤ワインやロゼワインも造られますが、アルザスワインと言えばやはり白ワインがメイン。赤みがかった果皮のグリブドウを含む白ブドウたちが活躍しています。
またアルザスでは甘口の白ワインも造られています。遅摘みブドウによる「ヴァンダンジュ・タルディヴ」や、貴腐ブドウから造られる「セレクション・ド・グラン・ノーブル」という極甘口のものまであります。
さらに「クレマン・ダルザス」というスパークリングワインのAOCもあり、キリッとした酸味と香り豊かな味わいが人気です。
持続可能な自然派ワインのパイオニア産地
アルザス地方のテロワールは、ヴォージュ山脈による恩恵だけでは語れません。今ではどの銘醸地でも自然を尊重するブドウ栽培が重要視されていますが、アルザス地方では伝統の中にそれが根付いています。
「土地は先祖から受け継ぐのではなく、次世代から借りている」という想いのもと、1970年代からサステナブルなブドウ栽培または農業と言う概念が浸透。減農薬栽培、リュット・アンテグレ(農薬使用はできる限り避け、天敵を利用した生物防除や物理的防除)、有機農法、ビオディナミなど様々な選択肢の中から、 生産者はそれぞれに最善と考える手法を取り入れています。
ヴァン・ナチュール、自然な造りのワインの基本を知りたい方は、こちらもチェック!
2021年6月には、アルザスワイン委員会(CIVA)主催によるオンラインセミナー「Millésimes Alsace Digitasting®」が開催され、世界各国のワインのプロフェッショナルが聴講。3つのポイントに沿って語られた“アルザスワインの今”の情報がありましたので、ここでお伝えしておきましょう。
ポイント1:食のトレンドに適合
世界的なワインの嗜好傾向として、食のライト化に伴ったワイン、フードフレンドリー(食事に合わせやすい)ワインというものを国内外のワインの専門家が挙げています。
肉食を減らし、より新鮮で健康的で自然な食品を選んで食べるようになる人が増える中、フレッシュ&ドライな白ワインやクレマン、酸味が心地よいピノ・ノワールの赤ワインといったアルザスのワインが、以前にも増して世界中の消費者のニーズに適合しているようです。
ポイント2:環境に配慮したワイン造りのパイオニア
先述の通り、アルザスは環境への配慮のパイオニアと言える銘醸地。透明性、健康、持続可能性といったキーワードとともに、オーガニックやビオディナミが新世代を中心に当然となっているとのこと。
ビオディナミでワインを造るアルザスの生産者、マリー・チュスランは「これはトレンドではなく当然のこと。消費者への責任です」と話し、カナダのソムリエ&ジャーナリストであるレミー・シャレストは「“ビオディナミ=高品質”ではありません。ですが、ワイン畑をよく見ることになるので、ワインの質の向上につながることは間違いない」と語りました。
ポイント3:あらゆる種類の土壌があるテロワール
「テロワールはワインのDNA」と言う造り手もいますが、アルザスは特有の微小気候(マイクロクライメット)だけでなく、土壌のバリエーションが豊富なこともポイントです。
「1番目の層に花崗岩、2番目の層は砂岩と花崗岩、3番目の層に石灰岩・・・」といった具合で、大きく分けて5種。細かく分けると13種にも及ぶとのこと。こうした土壌の複雑性が、アルザスワインに奥行きのある風味をもたらしているということでした。
「テロワールとは、歴史などのストーリー、独自性のある土地、そして人間の手。翻訳できない言葉のようなものです」と語ったのは、アルザス出身の醸造学者、ティエリー・フリッツ。ワインは単なる飲み物ではなく、総合芸術のようなものと言えるかもしれません。
おうちクリスマスは、アルザスワインで乾杯!
ちょっと難しい話にも及びましたが、アルザスのワインはサステナブルな要素とともに、食事に合わせやすいワインであるということがポイントです。
寒い冬に食べるとほっこりする野菜や肉の煮込み料理や鍋物、さらにアルザス名物の「シュークルート」には、キリッと冷やした辛口のリースリングが好相性。また、アルザスでは「フォアグラのテリーヌ」も有名ですが、この冷製の一品に甘口ワインを合わせると至極のマリアージュが生まれます。
クリスマスは心も華やぐ季節。
ヴァン・ショーを楽しんだり、温かな料理にアルザスワインを合わせたりして、楽しいワイン時間を過ごしてみましょう。
情報協力
アルザスワイン委員会(CIVA)