年末年始だから、ちょっぴりゴージャスに・・・。そんな時、ボルドーの甘口白ワインが活躍してくれます。トロリとした舌触りとゴールドを思わせる色のワインは、テーブルをさらに華やかに演出してくれます。
そこで今回は、意外なフードペアリングのコツやポイントから始め、ボルドーの甘口白ワインの基本や特徴、さらには年末年始の集まりでちょっとした会話のネタにもなる話をお届けします。
アペリティフからデザートまで楽しむ方法
photo:ボルドーワイン委員会(CIVB)
甘口の白ワインと一口に言っても、果実がおいしく香る多様なスタイルがあり、有名なソーテルヌやバルサック、ルーピアックなど、ボルドーには甘口白ワインのアペラシオンが17もあります。
精緻な造りから生まれる、甘い香りとみずみずしい風味。ハチミツ、砂糖漬けの果実、トースト、シナモンやサフランといったスパイス、茶葉を思わせるアロマなどもあるので、ちょっぴり奇抜で自由なペアリングを楽しむことができます。
半甘口と甘口とがありますが、ペアリング成功のキーワードは 「甘味と酸味のバランス」です。
アペリティフ・食事のプロローグに
「甘口ワインは食後に飲むもの」というイメージにとらわれないでください。ボルドーの甘口白ワインは、キリッと冷やせばそのままでアペリティフとしても楽しめます。心地良いアロマをゆっくりと楽しみながら、明るく和やかな雰囲気づくりをしてみましょう!
オードブルも今風アレンジで
前菜に生牡蠣?それなら、ありきたりなヴィネガーソースではなく、ピリッとスパイシーなソースと刻んだショウガをのせて、ライムをキュッと搾っていただきましょう。酸味の下支えがある甘口ワインと、まさにベストマッチ!
サイコロ状に切ったフォワグラを浮かべた、栗のポタージュもおすすめです。トーストしたパン・デピスを添えてサービスしましょう。
クリエイティブなレシピで旅気分を演出
パイナップル入りのココナッツカレーで、タイ風にアレンジしたチキンはいかがでしょうか。ボルドーの半甘口のワインは、スパイシーな料理にもぴったりです。さらに黒トリュフ風味のオマール海老のソテーなんていうゴージャスなメニューなら、抜群の相性を発揮します。
酸味が爽やかなデザートやチーズには半甘口を
パンをスライスして、バターで軽くローストした洋梨をのせ、シナモンパウダーをふり、フルム・ ダンベールなどのブルーチーズをトッピング。オーブンで数秒温めれば、大人な一品が完成。半甘口ワインと合わせれば、至福のデザートタイムが訪れます。
楽しい食事の締めくくりには、爽やかな風味のデザートもおすすめ。
定番のブッシュ・ド・ノエルも柑橘系のフルーツで飾って。ライムのピールを細かく刻んでふりかけましょう。他には、パッションフルーツ風味のクレーム・ブリュレもおすすめ。酸味、カリカリの食感、ワインの甘味とのハーモニーが生まれます。
甘口の白ワインは、冬が旬の食材と相性が良いもの。きのこ、栗、ローストチキンなどソフトな食感の白身肉、スパイシーなレシピや甘辛ソース。また、牡蠣や貝類のソテー、寿司、マンゴーを添えたホタテのポワレ、ソース仕立ての魚料理。若干クセがあるチーズやフルーツを使ったデザートとのペアリングもおすすめというわけです。
クリエイティブで、スタイリッシュなテーブルセッティングを準備しながら、料理と甘口白ワインとのちょっぴり奇抜で自由なペアリングを自分なりにぜひ試してみてください。
では、あなたにとって最適なワインを選ぶためにも、ボルドーの甘口白ワインの基本を少し学んでおきましょう。
どんな種類がある?「半甘口」と「甘口」の違いは?
photo:ボルドーワイン委員会(CIVB)
ブドウから滴るゴールドの雫。豊かで芳醇な味わい・・・ボルドー甘口白ワインのおいしさは言葉ではなかなか形容しきれませんが、基本を整理しながら、ここではご紹介していきます。
使われるブドウ品種は、主に3種類。
セミヨンは高い粘性と金色の外観を、ソーヴィニヨン・ブランはみずみずしい風味と酸味を、そしてミュスカデルはマスカットのような香りとやさしい風味をワインに与えます。
ボルドーでは現在、17のアペラシオン(AOC)で甘口白ワインを生産しています。それらは大きく「半甘口 (モワルー/moelleux)」と「甘口(リコルー/liquoreux)」という、2つのグループに分類できます。違いは残留糖分量で、1リットルあたりの同数値が4〜45gの場合は「半甘口」に、45g以上の場合は「甘口」に分類されます。
甘口ワイン(リコルー)の主なアペラシオン(AOC)
ソーテルヌ
バルサック
セロンス
カディヤック
ルーピアック
サント・クロワ・デュ・モン半甘口ワイン(モワルー)の主なアペラシオン(AOC)
ボルドー&ボルドー・シュペリウール
サント・フォワ・コート・ド・ボルドー
コート・ド・ボルドー・サン・マケール
プルミエ・コート・ド・ボルドー
グラーヴ・シュペリウール1855年格付け記載の白ワインは甘口だけ
1855年の万国博覧会を機に皇帝ナポレオンはワイン産地ごとに独自の格付けの作成を命じます。ボルドーの格付けに記載された白ワインは甘口のみ。ソーテルヌおよびバルサックの27クリュ(特1級1、1級11、2級15)が格付けリストに名を連ねています。
ボルドーの甘口ワインはどのように生まれる?
photo:ボルドーワイン委員会(CIVB)
甘口ワインの産地には特殊なミクロクリマ(局所気候)が存在し、ブドウ収穫が遅めであるという2点が大きなポイントとなります。
秋を迎える頃、ボルドー地方では水温の高いガロンヌ河と水温の低いシロン川とが合流することで朝霧が発生し、ブドウ畑は深い霧に包まれます。このような環境のもと、ボトリティス・シネレアと呼ばれる真菌が繁殖。真菌はブドウ果粒内の水分を減少させ、同時にアロマの生成を助け、貴腐ブドウが生まれます。
貴腐はブドウ果粒に含まれるアロマの凝縮を促すものですが、奇跡的なバランスで条件が揃った場合にのみ発生する稀有なもの。かなり凝縮した状態のブドウ果粒を収穫するので、ブドウ樹1本から得られる甘口(リコルー)ワインの量は、なんとグラス1杯分しかありません。
じっと見守り、アロマが十分に凝縮するタイミングを待っての収穫ですから、自ずと収穫時期は遅めになります。収穫はもちろん手作業。半甘口の場合は「超熟」状態の、甘口の場合は「干しブドウ」状態に熟した粒を、複数週かけて時期をずらしつつ、同じ樹から5〜9回に分けて摘んで回ります。
収穫は、通常9月末にスタート。年によっては初霜が降りる11月まで続くこともあるのです。果実自体がかなり凝縮しているため、搾汁には普通より時間がかかります。発酵はタンクあるいは樽内で行われます。
こうして丁寧にじっくりと育まれる甘口のワインは、桃、アプリコット、白い花、パイナップル、マンゴー、パッションフルーツ、アーモンド、ヘーゼルナッツ、ハチミツなどの多彩なアロマをまとい、長期熟成のポテンシャルも十分あるワインとなるのです。
ウソかマコトか?ボルドー甘口ワイン誕生の逸話
ボルドー甘口ワインの誕生には諸説あります。年末年始の集まりがあれば会話のネタにもなるでしょうから、ここでは3つほどご紹介しておきましょう。
episode1:ネゴシアン、フォッケ一族
1つ目は、当時ソーテルヌの「シャトー・ド・ラ・トゥール・ブランシュ」のオーナーであったネゴシアン、フォッケ一族にちなむ説です。
時は1836年。雨がしとしと降り続く空模様。収穫開始を願って晴れ間を待ちましたが、ボトリティス・シネレア菌による腐敗は容赦なく進みます。その結果、思いがけず糖分とアロマが凝縮した状態のブドウから、甘口白ワインが醸されたという“はじめて物語”です。
episode2:シャトー・ディケムのオーナー
2つ目の説は、当時「シャトー・ディケム」のオーナーであったド・リュル・サリュス侯爵に由来するものです。
時は1847年。収穫時期にシャトーを留守にせざるをえなかった侯爵は、自分が戻るまで収穫開始を待つよう命じます。ただ、侯爵が戻った時にはブドウはすでに、ボトリティスに侵されていました。それでも諦めず収穫したブドウでワインを造ってみたら、極めて上質なネクタール(神酒)が生まれたというものです。
episode3:オランダ人のために
最後、3つ目の説は、意外性には欠けるかもしれません。16世紀から17世紀にかけて、ボルドーはオランダとの取引で活況を呈していました。当時のオランダ人には甘い白ワインが人気だったので、 オランダ人自らが持ち込んだ硫黄くん蒸の技術を使って発酵を強制中断し、残留糖度の高いワインに仕上げる醸造法が確立されます。この工法が地元生産者へと広がり、オランダ商人にウケの良い甘口ワインが生産されるようになったというものです。
心躍るシーズンに、特別なワインをセレクト!
金色から時にはトパーズ色に輝く鮮やかな色調、砂糖漬け果実や蜂蜜のアロマ、優美で濃厚なテクスチャー。多様性に満ちたワインの世界でも、ボルドーの甘口白ワインは極めて特殊な地位を占めています。
年末年始の心躍るシーズン。家族や友人、恋人、気の置けない仲間と一緒に味わうワインとして、絶好のチョイスとなるでしょう。
畑から蔵まで、そのノウハウはまさに無類のもの。濃醇な味わいは、口に含むたびに驚きと感動をもたらしてくれます。