同じブドウ品種から造られたワインであっても、産地、造り手、ヴィンテージ(収穫年)、熟成、保存管理などによって、ワインの風味は大きく異なります。
でも、品種とそのブドウが造られた産地の特徴を知っておくと、どんな香りや味わいのワインなのかを判断する大まかな目安となり、自分好みのワインを選ぶ時にとても役に立ちます。
シリーズで展開している【テロワールでどう違う?主要産地別の品種ワインの特徴】。今回のテーマ品種は、カベルネ・ソーヴィニヨンです。世界中のワイン愛好家の心を捉えて離さないこの品種自体が持つ主な特徴からまずは確認していきましょう。
カベルネ・ソーヴィニヨンの主な特徴
世界一の栽培面積を誇り、認知度でも1位2位を争うブドウが、このカベルネ・ソーヴィニヨンです。
呼び名も「カベルネ・ソーヴィニヨン」一択!シノニム(別名)がない国際品種のブドウもめずらしいと言えるでしょう。
カベルネ・ソーヴィニヨンのルーツと歴史
シノニム(別名)がないのは、比較的新しく登場した品種であるということもポイントのようです。
ワイン造りには8,000年もの歴史があると言われますが、カベルネ・ソーヴィニヨンの登場は17世紀。フランス・ボルドー地方でカベルネ・フランとソーヴィニヨン・ブランの自然交配から生まれたとされています。
晩熟な品種で、小粒の実の果皮は厚く色も濃いのが特徴。力強いタンニン(渋みの成分)とともに、長期熟成に向く赤ワインが原産地のボルドー地方では多く造られています。
比較的温暖な気候が向いていて、さらに土壌への適応力が高く病害に対する耐性も強いとあって、世界各地に広がっていきました。
カベルネ・ソーヴィニヨン 品種由来の風味
世界中で栽培される品種なので、産地によって若干香りや味わいも異なります。それぞれの特徴については、後ほど詳しくご紹介しますが、品種由来の主な特徴としては以下のようなものが挙げられます。
香り カシス、ブラックチェリー、ブルーベリー、青ピーマン、ミント、杉、鉛筆の芯
味わい 果実味と酸味のバランスが良く濃厚で、熟成が若いものは渋みがしっかり
それではカベルネ・ソーヴィニヨンの主要産地別に主な特徴を見ていきましょう。
フランス:ボルドー地方
フランスでのカベルネ・ソーヴィニヨンの栽培の6割以上が、原産地でもあるこのボルドー地方。世界に名を轟かせる伝統的なシャトーがいくつもあります。
ジロンド川の左岸地区で多く造られますが、ほとんどが100%の単一ではなく、メルロやカベルネ・フランなどをブレンドした「ボルドー・ブレンド」と呼ばれるスタイルのワインになります。
イギリスが世界の覇権を握っていた時代。ボルドーはまさに彼らのためのワイン産地でもありました。イギリス人の好みに合わせた色や風味を安定的に提供し、長期熟成にも向くワインを求められる中で、ブレンド(アッサンブラージュ)のノウハウが積まれていったとも言われています。
カシスなどの黒い果実に加え、ピーマンのような青い野菜や杉の香りがあり、アルコール度数は中庸で、引き締まった味わいが特徴。渋みは強めですが、熟成とともにまろやかになり、なめし革やクローヴなどの複雑な香りも現れます。
ボルドー以外のフランスでは、ロワール川流域やラングドック・ルーション地方でも栽培されています。ロワールでは比較的軽やかなワイン、ラングドック・ルーションではより温暖な気候から、凝縮した果実味を持つワインが造られています。
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アメリカ:カリフォルニア州
ナパ・ヴァレー、ソノマ、パソ・ロブレスといったカリフォルニア州の産地では、ブレンドしたワインも造られますが、カベルネ・ソーヴィニヨン100%のワインも多く造られます。
完熟したアメリカンチェリーやカシスのアロマに、チョコレート、干しブドウなどの香りが重なり、酸味はおだやかで凝縮感あるフレーバーとなっているものが多く、14%以上のアルコール度数もめずらしくありません。また、渋みがしっかりとした長期熟成に向くプレミアムワインも多く造られています。
カリフォルニアのカベルネ・ソーヴィニヨンが世界に知れ渡ったきっかけは、1976年の「パリ対決(パリテイスティング)」。著名なワインのプロフェッショナルによるブラインドテイスティングで、ボルドーの格付け1級シャトーに勝利したことで、一気にスターの座へと駆け上がりました。
また、最近では比較的冷涼なオレゴン州やワシントン州、ニューヨーク州などでも上質で長期熟成にも向いたカベルネ・ソーヴィニヨンのワインが造られています。
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チリ
カベルネ・ソーヴィニヨンは、南米のほとんどの国で栽培されていますが、最も有名なのはチリ。コンビニでもおなじみの安価なものからプレミアムワインまで多岐に渡っています。その品質の高さと手軽さで「チリカベ」と呼ばれるほど、日本の市場でも重要なワインとなっています。
カリフォルニアに勝るとも劣らない、濃厚な果実味と高いアルコール度数が特徴の一つで、総体的に力強い印象。ミントを思わせる清涼感溢れるハーブのニュアンスを伴いながら、果実味が豊かで渋みが少ないものが多く造られています。
南北に細長い国土で、北部は赤道に近く、南部は寒くてブドウ栽培には向かないため、中部のマイポ・ヴァレー、コルチャグア・ヴァレー、アコンカグアといった産地が特に有名です。
オーストラリア
オーストラリアの黒ブドウと言えばシラーズが有名ですが、カベルネ・ソーヴィニヨンもそれに次ぐ重要な黒ブドウ品種。シラーズとブレンドされた赤ワインも多く造られています。
シラーズよりもタンニン(渋み)がしっかりしていて適度な酸があり、熟したカシスやブラックチェリーに加えて、ユーカリの香りが特徴的。チョコレートや干しブドウの風味もあり、パワフルな味わいのワインが多く造られています。
特に有名な産地は、南オーストラリア州のクナワラと西オーストラリア州のマーガレット・リバー。しっかりとしたフルボディのワインが造られています。
また、酸味とタンニン、果実味のバランスが心地よいタイプのワインが、クレア・ヴァレーやヴィクトリア州のヤラ・ヴァレーなどの冷涼なエリアで造られています。
イタリア、スペイン、そして中国や日本でも!
世界のワイン産地でカベルネ・ソーヴィニヨンを栽培していない国の方がめずらしいと言うくらいメジャーな品種ですが、フランス、アメリカ、チリ、オーストラリア以外の代表的な産地もいくつかご紹介しておきましょう。
まずは、イタリア。トスカーナ州の「スーパートスカーナ(スーパータスカン)」と呼ばれる赤ワインには欠かせない品種です。
1970年代、世界で人気となる高品質なワインをつくろうとする生産者が、土着品種よりもカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロなどの国際品種を植え、サンジョヴェーゼとブレンドしながら重厚なワイン造りをするようになりました。こうしてトスカーナのボルゲリを中心に誕生したのが「スーパートスカーナ」。土着品種への回帰が起きている昨今においても、確固たる地位を築いています。
スペインでは、最近は単一の造りのものも増えてきましたが、カスティーリャ・イ・レオン州にある銘醸地、リベラ・デル・ドゥエロなどでは、テンプラニーリョとブレンドした重厚で長期熟成に向くワインが造られています。スーパートスカーナの流れと似た印象もあります。
スペイン語圏、南米のアルゼンチンでは、メンドーサが有名。マルベックとブレンドされたワインもあり、熟した黒系果実のニュアンスと樽熟成からくるスパイシーな風味のものが多くあります。
日本では、メルロほどの広まりはありませんが、長野、山形、山梨といった主要産地で造られています。
お隣の中国では、ボルドーの赤ワインがもともと大人気。一時期、中国人がボルドーワインやシャトーを買い占めるというニュースも騒がれました。
最近では、国や地方行政が積極的にワイン生産に力を入れている上、広大な国土には栽培にとても適した気候と土壌もあります。
中国の近代ワインの出発地、山東省煙台(エンタイ)には、ボルドー5大シャトーの筆頭、シャトー・ラフィット・ロートシルトが造る「ロン・ダイ」もワイナリーを構えます。
また“中国のボルドー”とも“中国のナパ・ヴァレー”とも称されている寧夏回族(ネイカカイゾク)自治区、賀蘭山(ガランサン)東麓のカベルネ・ソーヴィニヨンは、今後ますます注目を集める存在となっていくと思われます。
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ブドウは農作物。工業製品ではないので、育まれる土壌やその土地の気候などの影響をダイレクトに受け、毎回同じものが作られるわけではないので、当然ワインもその特徴を引き継ぎます。
様々な要素をすべて把握するのは一朝一夕にできることではありませんが、世界各国のカベルネ・ソーヴィニヨンを色々と飲み比べて、ぜひお気に入りの1本を見つけてみてください。
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